151人が本棚に入れています
本棚に追加
「お勉強中ごめんなさいっす。松林くん。ちょっとお話があるんすけどいいっすか?」
南條の登場があまりにも予想外の出来事らしく、「え?」という掠れ声をこぼし呆然とする松林。
「ああ、別にカツアゲとかそういうのじゃないですからね。鎌田友恵さんについて聞きたいなと思いまして。菊池さんが言っていましたよ、菊池さんと鎌田さん。そして松林くんは幼なじみだったと」
鎌田友恵という名を出した途端、菊池と同じく松林は眉を眉間に寄せる。
「ここでは皆さんの迷惑になりますので、場所を移動してお話しをお聞きしたいのですが?お時間は取らせませんので」
怪訝そうな松林は、勉強道具一式を鞄に丁寧に詰めると立ち上がる。
「では移動しましょう」
そう松林が腹を括ったように先導する。
四人がたどり着いたのは、人気のない渡り廊下だった。開け放たれた窓から吹き込むそよ風に熱を冷ますように凭れかかる松林。
その正面に立つ三人。
「それで?聞きたいことってなんですか?」
少し怒りのこもったような声色に、表情を和らげる白鳥。
「単刀直入に聞きますね。あの事故以前に鎌田さんに変わったところはありませんでしたか?」
その白鳥の問いに睨むような視線を向ける松林。
「そうですね。変わってはいなかったじゃないんですか?元々、ああいう奴だったってことですよ」
「ああいう奴?それはどういう意味ですか?」
そう聞きかされた松林の表情に今度は困惑が浮かぶ。
「え?まーちゃんいえ、真宙から聞いてないんですか?」
三人は顔を見合わせて互いに少し首を傾げる。
「ごめんなさいね。真宙さんってのは菊池さんで良かったのよね?」
「は、はい」
「だとしたら、何も聞いていないわね。そもそもあの子はこっちに越してきたばっかりで、あなたたちとはブランクがあると言っていたわ。そんな菊池さんでも簡単に気づける変化があったということ?」
松林は三人の顔を見渡すと小さく首を横に振る。
「すいません。この事は忘れてください」
一転する松林の言動に白鳥は目を細める。
「何か隠してるいや、隠したい事があるんですね?」
「いえ、さっきのは言葉の誤です。すいません」
「とてもそうは思えないのですが」
「もう。いいですか?勉強の続きをやりたいので戻ります」
松林は三人を潜り抜け足早に図書室への道を引き返し始める。
そして数歩歩いたところで立ち止まると、振り向くこともなくこう口を開いた。
「何の風の吹きまわしか分かりませんが、亡くなった生徒の事をいちいち掘り下げるのはどうかと思います」
そして再び歩き出すとその背中はあっという間に小さくなっていった。
最初のコメントを投稿しよう!