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序章
雲のない西の空に夕焼けのなごりがうっすら残る時間帯。黄昏とも言われる時間になって、ようやく顔を上げる。
夢中になって書類をかたづけていたためか、室内が闇に閉ざされようとしていることにも気づかなかったことにレイヴァンはおどろく。
今日は、夜会が開かれる日であるから早々に仕事を終えようと考えていたのに予定通りに進まない。特に今日は、大切な日であるのに、うまくことが運ばないことに苛立っていた。
マリアの誕生日である今夜、開かれる舞踏会は貴族達に「女性である」ことを公表し、正式に「王位継承者」とする式典がおこなわれる。こんなめでたい日に一番の臣下である自分が遅れるわけにいかないとレイヴァンは思ったのだ。けれど、準備をしなくてはならない時間はとうに過ぎた。あと一刻もすれば、夜会が開かれてしまう。
「ああ、まずい」
思わずつぶやいて、騎士として甲冑をまとい帯剣したあと、着慣れぬ正騎士長としての漆黒のマントをまとい羽根飾り帽子をかぶる。マントの胸元に国王からいただいた軍事勲章をつけて、鏡の前に立った。
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