序章

13/20
前へ
/641ページ
次へ
 かしづくレイヴァンが頭を低く下げる。すると、闇の中で静寂をやぶる洋琵琶(リュート)の音が風にながれてくる。おどろいて、そちらを向けばいままでなりを潜めていたギルが月明かりの元へ出てきた。 「おや、正騎士長様はお姫様と逢い引き中ですか」  あいかわらずの軽口で言葉をすべらせるギルにマリアが反対しようとしたとき、レイヴァンが先に言葉を吐いた。 「そうだ、だから邪魔をしないでもらおうか」  何を言い出すのかと思って、まじまじと騎士を見つめる。けれど、騎士は真剣そのもので冗談でかえしている様子ではなかった。  ギルがややひるんで、軽口でかえす気にもなれず肩をすくめた。 「お姫様は、そんなつもりではなかったようですぞ」 「それはいけない」  ギルにそう返して、レイヴァンがマリアの肩をつかむ。くちびるの口角が上がり、瞳がいやらしくきらめいた。 「あなたにはもっと“自覚”をしていただかなくては」
/641ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加