序章

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 かわらないソロモンの声にマリアが顔を上げて笑みを零したとき、わかい女性の黄色い声があがる。どうやら、ソロモンに向けられた声らしく貴族の二十代前半頃の息女が頬をあからめ、うっとりと胸の前で手を組んでいた。 「あれがファーレンハイト公爵? わかくして家を継いだと聞いていたけれど、本当にお若くて薔薇のように品のある笑顔を浮かべられるのね」 「ファーレンハイト公爵もいいけれど、後ろに控えているエーヴァルト卿もいいですわ。あのわかさで王族に次ぐ正騎士長であらせられるのですもの」  ひそひそと話す声がマリアの耳にとどいた。ふたりは、貴族達から好感触であるらしい。自分のことをひとつも言われないのは、すこしほっとするけれど、ふたりの側にいるのがいたたまれず逃げ出してしまいたい感情にかられてしまう。 「姫君」  耳元でソロモンにささやかれ、うつむいていたのだと気づく。ごめんと紡がれようとした唇が、ソロモンの言葉によってかたまってしまった。 「いけませんよ、姫君。そのようにうつむいては、せっかくのかわいい顔が台無しです」
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