<前編>

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 ***  当時。  通信回線の申し込みは、ほとんどハガキで行われていた。一応再三言っておくならばこれは十年ほど前のことであり、当時であっても十分にインターネット環境は整っていたはずの時代である。無論、WEB申込みも可能だったはずだ。  それなのにハガキ申込みが減らなかった理由は単純明快、申込み者に年配の人が多かったからだろう。パソコンやスマホ、ケータイ電話を持っていないという人はハガキで申込みをするしかない。持っていてもやり方がよくわからないという人も同様だったことだろう。  私達の仕事は、そうやって送られてきたハガキを仕分けして、自分たちの部署の担当のものを持っていき、データベースに入力していくというものだった。  部署A、部署B、部署Cとあり、私達は部署Aに該当している。朝は朝礼のあと、送られてきた大量のハガキをまず部署Aの人間で部署ごとに仕分けすることから仕事が始まる。そしてAのハガキの山を自分のパソコンのとこへ持っていき、一つずつ手入力していくのだ。  存外面倒だったのが、この最初の仕分け作業である。A部署の女性陣総出で行うのだが、いかんせん毎日やってくるハガキの量が大量すぎるのだ。それを仕分けした上で、十枚ごとの束にまとめなければいけない。何枚のハガキが来たのか、それも確認しなければいけないためだ。  また、入力した数を数えなければいけないという理由もある。十枚ずつゴムで止めて、さらにそれを五つセット=五十枚の束にする。  そしてどうしてもどの部署担当なのかわからないものは後回し。別のカゴに一時的に避けておく。――なんでわからないのかといえば、ようは入力に不備があったり、文字が読めないハガキが少なくないからだ。電話番号が分かる場合は後々電話をかけて、相手に足りない情報を確認しなければいけない。アナログ特有の問題だと言える。 「すみません、これ……なんて書いてあるのか読めますか?」 「んー?なになに?」  入ったばかりの私より、百戦錬磨の先輩方のほうが“くせつよ文字”を読むスキルに長けている。私が読めないハガキであっても、彼女たちに尋ねると分かることが少なくなかった。 「それ、多分B部署のやつね」  答えてくれたのは村田さん、というベテランの女性だった。おそらくは六十手前くらいの年だろう。声が大きく元気がよく、女性たちの中心にいつもいるような人だった。
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