仲間外れのカラス

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そのカラスは他のカラスからも仲間外れにされていました 気が弱く優しいのに カラスだというだけで 人間にも他の鳥達にも嫌われて カラス達からは弱虫だとバカにされて いつも一人ぼっちでした 春の穏やかな陽溜まりの中 白梅の枝を行き交い蜜を吸っている 小さくて可愛いメジロの群れを見て そのカラスは思います ”僕もメジロに生まれたかった”と メジロのように花の蜜を吸っていれば 生ごみを漁ったりしなくても済む 人間に「あっちへ行け」と追いかけられなくても済む そう思って メジロがとてもとても羨ましくて とてもとても憎らしくなりました 気が付くとカラスは 一羽のメジロに襲いかかり その小さな羽を 鋭い嘴で傷付けてしまっていました 一斉に飛び立って逃げてしまった仲間達に取り残され 力なく土の上に横たわっているメジロを見て カラスは自責の念に捕われました ”何故こんな事をしてしまったんだろう” ”傷付けるつもりなんてなかったのに” カラスは自分の巣に傷付いたメジロを大事に運ぶと 一生懸命傷の手当てをしました メジロの為に美味しい花の蜜を 冷たい雨の日も強い風の日も外に出て 沢山集めて来てくれました 最初はカラスに怯えていたメジロも カラスの優しさに触れ カラスの寂しさを知り 傷が治る頃には すっかりカラスと打ち解けていました 初めてできた友達に カラスはとても喜びました 酷いことをした自分を許してくれたメジロを とてもとても大事にしました まるで宝物のように― そうしてカラスからも仲間外れのカラスと そのカラスの手によって仲間と引き離されたメジロは 互いに寄り添い 仲睦まじく暮らしていました カラスはメジロと同じ花の蜜や木の実で暮らしていたので 体まで弱くなってしまったけれど それでも幸せでした けれど一年も経った或る日 カラスとメジロが一緒に花の蜜を吸っていると 人間の子供達が大声で騒ぎ立てました 「カラスがメジロを苛めている」と その声を聞いて カラスとメジロが慌てて逃げようとしたその時 子供達がカラスに向けて投げつけた石の礫を受けて カラスを庇って カラスの身代わりになって 小さなメジロは呆気なく死んでしまいました ”どうして…?” どんなに話し掛けても どんなに傷の手当てをしても もうメジロは息を吹き返す事はありませんでした ”僕が寂しいなんて思わなければ…” メジロを羨ましいと思わなければ 嫌われ者のカラスとして 仲間からも仲間外れのカラスとして 一人きりで生きていれば メジロは死ななくて済んだのに 他のメジロ達と一緒に ずっと幸せに生きられたのに カラスは自分の愚かさを呪いました 一人でいることを寂しいと思った自分を 心の底から 呪いました そうして 日が暮れる迄ずっと泣き続け 涙も涸れ果てる頃 どんなに泣いてもメジロが生き返らない事を思い知らされ メジロの亡骸を大事にその足に抱えると 星も月もない暗い西の空へと たった一人で 力なく飛び立ってゆきました ただただ暗い闇の中へと 吸い込まれるように消えてゆきました もう二度と誰とも会わなくて済むように 孤独を感じなくて済むように― <無断転載・複写等禁止>
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