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「――じゃあなに、戸田(とだ)君はさ……」  三崎(みさき)の声が、静かに躊躇ったように途切れた。そして彼女は、慶太(けいた)が言葉の続きを予想する間もなく、再び言う。 「ほんとは嫌なのに、行きも帰りも私に付き合ってたってことなわけ」  中学からの下校途中のことだ。ツバメが電線の上へと宙を切るなか、車椅子に乗った同級生の三崎は、すっかり不機嫌そうなオーラを醸している。 「いーや……なんでそうなるんだよ。別に、そういうわけじゃなくてさ。俺が言って――」 「違うじゃんだって! 遠回しに言ってるようなもんじゃん、そんなの」  どんどん機嫌が悪くなっていく様子に、慶太はため息が増える一方だった。  もしかしたら何を言っても火に油を注ぐだけかもしれない。そう思いはしたが、それでも口を開いた。妙な誤解があっては嫌だったし、何より解せないからだ。 「なんでそうやって、変に意地張んの三崎は。  三崎だってさ、今は友達いるわけだろ。だから、俺よりそいつらの方が自然だと思うし、そっちの付き合いだってあるだろうし。それから、その……変な目で見られなくて済むじゃん。だいたい、こっちは心配して言ってやってんだぞ」  すると、慶太の押していた車椅子は躓いたように止まり、身体は目の前の車椅子にトスンとぶつかった。 「おいっなんだよ、いきなり危ないじゃん……!」  ブレーキレバーを掴んだ手は、肝を煮やしたように強く握りしめられて震えていた。 「もういい……」 「は……もういいって、なにが?」 「だから……一緒にいたくないなら、別に無理して付き合わなくていいって言ってんの!」 「は。違うって……俺は――」 「お母さんには私から言っとくから、もう一人で通学するって。だから……明日から待ってなくて良い。じゃあね――」  そして三崎は、ブレーキを外すと早々に先へ行ってしまった。半袖のシャツから伸びる細い腕を、必死に動かしながら。  慶太は、そんな三崎の姿をじろっと睨み「は……なんだよ。マジであいつ、子供じゃあるまいし……バカじゃねーの」と、小声で漏らした。  そして気付けば、どこに行く予定なんてないものの、どこかに行こうとして踵を返し、とりあえず駅前へ歩き出していた。でもいくらか歩いたところで立ち止まった。 「はぁ……もー、ほんっと」
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