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目の下にそっとペン先を落とす。あっというまにインクを吸い込んで、そこだけにじんだようになった。
あとは、黒ペンで口を笑ったように書いておしまい。これで完成した。肩から力が抜けてほっとする。
「念のため、わたし見なかったよ。美桜ちゃんが書いてるところ見なかったからね! だから大成功」
大成功と言われると急にうれしくなった。大成功だ! きっと雨が降って傘を開ける時がくる。沙耶ちゃんが言うなら間違いなしだ。
と、その時階段からママの足音が聞こえた。
「ママが来る!」
「やばい! 早く吊るさないと!」
「でもヒモがないよ!」
「え! だめじゃん!」
「どうしよう!?」
わたしたち2人はあたふたしちゃって、てるてる坊主を手に持ったまま窓際に立った。すると、沙耶ちゃんが「あ!」と言って、とつぜん自分の髪の毛のゴムをとり始めたのだ。
「どうしたの?」
「こ、これ、使ってひっかけて!」
沙耶ちゃんのヘアゴムだ。
太めのゴムに長い髪の毛が1本からまってる。でもそんなことかまわない。急がないと! わたしはカーテンレールにてるてる坊主さんを逆さまにしばりつけるような形でさっと結んだ。
それと同時にママがコンコン、とドアをノックする音が聞こえたんだ。
「美桜? 開けるよー」
ママはオレンジジュースとドーナツをかわいいお盆にのせて持ってきてくれた。
ママは何も言わなかった。振り返ってさっと背筋を伸ばしたわたしたちを見ても。
「いつも2人は仲良しねえ。沙耶ちゃんいつもありがとうね。おやつ食べてね」
「わあ、美味しそう! いただきます!」
「ありがとう。ママ」
「ちゃんと手を洗うのよ?」
「はぁい」
大丈夫。気づかれてない。大丈夫。
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