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8. 怒り
僕は無事に高校に合格し、高校一年生になった。
その夏、またハンゴンサマの日がやってきた。
ハンゴンサマが生きた人間ではないと思うと少し怖かったが、祖父や父がいるし例年通りにすればいいんだと、当日は朝から家でハンゴンサマを迎える支度を手伝っていた。
夕方、いつものように、酒屋から角樽酒が届いた。
酒屋のおじさんが引退して、東京からUターンして店を継いだ息子さんが届けてくれた。魚屋さんからも新鮮な刺身が届いた。
僕は制服を着て、祖父や父と玄関でハンゴンサマを待った。
ハンゴンサマの姿がすりガラス越しに見え、僕が引き戸を開ける。これは死霊なのだと思うと震えそうになったが、それを悟られてはいけないと平静を装った。
ハンゴンサマはそんな僕を見て、にやっと笑ったような気がした。
奥座敷に用意された宴席にハンゴンサマが座ると、父と僕は丁寧にお辞儀をして部屋を出た。仏間で待つ祖母や母、弟のところへ無言で向かう。
すると、ガシャンと奥座敷から食器が割れる音がした。
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