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9. 誓い
一年が経ち、ハンゴンサマの日になった。
息子に先に逝かれたショックからだろうか、祖父はこの一年ですっかり弱ってしまい、入退院を繰り返すようになっていた。
ハンゴンサマを迎えるのは、僕しかいない。
病院で祖父から、ハンゴンサマに粗相がないよう手順を教わった。
絶対に間違えてはならない。
準備が整い、夜になってすりガラス越しにハンゴンサマが立つのが見えた。
中学の制服を着た弟が僕を見た。僕は安心させるように微笑んで肯くと、弟は震える手で引き戸を開ける。
にこやかなハンゴンサマが立っていた。
「ようこそいらっしゃいました。お待ちしていました」
僕が言うと、「お久しぶりですね。一年ぶりですか」と、男は穏やかな笑みを見せた。
「さあ、どうぞお上がりください」
僕は弟に仏間に行くよう目で合図して、ハンゴンサマを奥座敷に通す。
祖母と母が準備したご馳走と、今年は最上級の日本酒も用意してあった。
「お父さんは残念でしたね」
ハンゴンサマは言った。
知ってるということは、やはりこいつのせいかと、怒りに震えそうになるのを我慢した。
「はい。祖父も病気がちで、今年から僕がお相手します」
「それは楽しい。では、君が六代目になりますね。どうぞよろしく」
ハンゴンサマが微笑んだ。
代替わり前に父が死んだので、僕が六代目になってしまった。
僕は決めていた。
いつか大人になったら必ず手立てを見つけ、父と浩介の仇を取る。
僕の息子に代替わりする前に、こいつを倒してやる。
しかし、それまで絶対こいつに悟られてはならない。
「こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします」
僕は微笑むと、深々と頭を下げた。
<了>
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