2. 大切な客

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2. 大切な客

 祖父は紋付羽織袴の正装をして、髪や髭を整え、とても立派に見えた。父は仕事に行くときのようなワイシャツと紺のズボン姿で、やはり髪の毛を綺麗に整えていた。  祖父が口を開いた。 「今夜、ハンゴンサマという方が家にいらっしゃる。俺がお相手するが、お前も十歳になったから、父さんと一緒に挨拶してもらう。何を聞かれても話す必要はない。『陸斗です。これからよろしくお願いします』と言えばいい」  祖父の言葉に僕は肯いてから、「ハンゴンサマって誰?」と聞いた。 「今は何も知らなくていい。お前がもう少し大きくなったら教えてやるから」と祖父が言い、「お父さんも、お前と同じで十歳の時に初めてハンゴンサマに会った。これは、この家の男の役目なんだ」と父が続けた。 「わかった」  二人の真剣な表情に、僕はそう答えるしかなかった。  きっと、すごく大切な、でも怖い客なんだと思った。  日が暮れると、母と祖母は仏間に入った。祖父と父と僕は、玄関の前の廊下に正座してその時を待つ。
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