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「来られた」
祖父が言い、父が肯いた。
僕は最初、なんでわかるのか不思議だったが、やがて空気が変わり、匂いが変わったような気がして、これのせいかと気づいた。
僕の家は古い大きな日本家屋で、玄関は広い土間に木の格子とすりガラスの引き戸があった。そのすりガラス越しに、外に人影が立つのが見えた。
父が土間に降りて、引き戸を開ける。
すると、そこには温和そうな若い男が立っていた。白い開襟シャツに黒いズボンを履いていた。
「ようこそいらっしゃいました。お待ちしていました」
祖父がそう言うと、「お久しぶりですね。一年ぶりですか」と言って、男は穏やかに笑った。
「さあ、どうぞお上がりください」
祖父の言葉に男は靴を脱いで上がり、父が靴を揃えた。
祖父のあとについて廊下を進む際に、男は廊下の隅に立つ僕に目を留めた。
(全然、怖いお客じゃないや)
そう思ったのは一瞬だけだった。
男が僕に向かって笑いかけた途端、背中がぞくりとした。男の口角は上がっていたが、目は氷のように冷たかった。
そして、男が僕の横を通り過ぎた時、つんと鼻につくような嫌な臭いがした。
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