2. 大切な客

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「来られた」  祖父が言い、父が肯いた。  僕は最初、なんでわかるのか不思議だったが、やがて空気が変わり、匂いが変わったような気がして、これのせいかと気づいた。  僕の家は古い大きな日本家屋で、玄関は広い土間に木の格子とすりガラスの引き戸があった。そのすりガラス越しに、外に人影が立つのが見えた。  父が土間に降りて、引き戸を開ける。  すると、そこには温和そうな若い男が立っていた。白い開襟シャツに黒いズボンを履いていた。 「ようこそいらっしゃいました。お待ちしていました」  祖父がそう言うと、「お久しぶりですね。一年ぶりですか」と言って、男は穏やかに笑った。 「さあ、どうぞお上がりください」  祖父の言葉に男は靴を脱いで上がり、父が靴を揃えた。  祖父のあとについて廊下を進む際に、男は廊下の隅に立つ僕に目を留めた。 (全然、怖いお客じゃないや)  そう思ったのは一瞬だけだった。  男が僕に向かって笑いかけた途端、背中がぞくりとした。男の口角は上がっていたが、目は氷のように冷たかった。  そして、男が僕の横を通り過ぎた時、つんと鼻につくような嫌な臭いがした。
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