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3. ハンゴンサマ
奥座敷に父に連れられて入ると、会席盆を前に男が座っていた。
会席盆の上には、母と祖母が用意した心づくしのご馳走が並べられてあり、酒も用意されていた。
男の前に向かい合うように祖父が正座していて、僕は父と一緒にその後ろに座った。
男は僕に目をやる。
「孫の陸斗です。十歳になりましたので、ご挨拶させていただきます」
祖父がそう説明し、斜め後ろの僕に肯く。
「陸斗です。これからよろしくお願いします」
先ほど祖父に言われた通りに挨拶した。
「ほお、では彼が七代目ですか。頼もしい」
男はにっこり笑った。
そしてさらに男は僕に何か言おうとしたが、その前に祖父が、「お前達はもう下がりなさい」と言った。
父が深くお辞儀をしたので僕もその真似をし、二人で立ち上がり部屋を出た。
「ところで、ヤヨイは帰りましたか」
廊下に出て父が襖を閉めるときに、男の声が聞こえた。
黙って廊下を進んだ父は、僕を連れて仏間に入るとふうっとため息をついた。
祖母が仏壇に向かって熱心に祈っている横で、母が不安そうな顔をしていたが、僕の姿を見てほっとしたような笑顔を見せた。
僕は父に「今のは何?」と聞こうとしたが、父が僕を見て黙って首を横に振ったので、静かにその場に座っていた。
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