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一時間程しただろうか。廊下を歩く二人の足音がし、玄関の引き戸が開く音が聞こえ、そして今度は一人で廊下を戻る祖父の足音がして、仏間の襖が開かれた。
「終わったよ」
祖父がどっと疲れたような表情で僕達を見た。
それまで張りつめていた緊張の糸が切れたように、それぞれが深く息を吐いた。
お座敷の片づけが始まった。盃は少し濡れていて飲んだあとがあったが、料理は手つかずのままだった。しかし、会席盆ごと台所に運ばれた料理は、すべてゴミ箱に捨てられた。
「もったいない。捨てちゃうの?」
捨てるなら、食べるのにと思った。
「穢れているからね。絶対に口にしてはいけないよ」
祖母が言ったが、“ケガレ”の意味がわからなかった。
詳しい説明はないまま片づけをして、その夜は終わった。
(あれはなんだったんだろう)
布団の中でそう思ったのもつかの間、疲れからかすぐに眠ってしまった。
ところが、翌朝から僕は熱が出て、三日三晩高熱にうなされることになった。
母や父、それに祖父母が交互に枕元に来てくれたが、「ハンゴンサマに初めて会うと、子供は瘴気に当てられてこうなるんだ。少しの辛抱だからな」と父に言われたのが印象的だった。
熱が下がり食欲が出てくれば、子供なんてものはすぐに元気になった。残りの夏休みはまた友達と、野山を駆け巡って遊んだ。
そんな十歳の夏だった。
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