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5. 浩介
ハンゴンサマの夜。
生温い、すえたような臭いがしてきて、ハンゴンサマが近くまで来ているのがわかった。
その頃には、僕が玄関の引き戸を開ける役目になっていた。すりガラス越しに人影が見えると、僕はゆっくり引き戸を開けた。
ハンゴンサマが立っていた。
「少し遅くなりました。途中で用を済ませていたので」
ハンゴンサマはにこやかだったが、いつもと話す内容が違っていた。
一瞬、廊下に正座する祖父と父の顔色が変わった。
「お久しぶりですね。一年ぶりですか」
そのあとはいつもと変わらなかった。
一時間後、ハンゴンサマが帰ると、祖父が仏間に現れた。仏間には僕と両親、祖母、それに今年から弟も従姉の家には行かず一緒にいた。
「誰か、家を抜け出しているのかもしれない。陸斗、お前の友達の中に、こっそり街に出かけた者はいないか?」
祖父に聞かれる。
「それはないと思うけど。皆、親に止められてたし」
ハンゴンサマがいつもと違ったのは、誰かが掟を破って外に出たからではないかと、祖父は心配していた。
「念のため、確認してみなさい」
父に言われて、僕は自分のスマホのメッセンジャーアプリを開き、仲間のグループチャットに、皆家にいるか確認メッセージを送る。
――家にいるよ――
――抜け出さないよう親に拉致られてる――
――暇だあっ!――
すぐに返信が届く中、一人だけ既読さえつかない友達がいるのに気づいた。浩介だ。
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