華苑受験

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2年後 いよいよ、中3になった星彩が、 初めての受験に挑む日が来た。 自信は、あった。 小6の後半から、受験クラスに入って、厳しいレッスンを受けてきた。 スクールの代表からは、 首席で入学して、 首席で卒業する そう決めて受験するよう言われていた。 ライバルは他人じゃない。 弱気になったり、傲慢になったり、 これぐらいでいいと妥協してしまう 自分自身だと。 平常心で臨む。 それだけでいいとアドバイスされていた。 一次試験は、当然のように突破した。 二次試験には、おばあちゃんが付き添うと言ったが、 「星彩は、ひとりで行けるから、 おばあちゃんが疲れて倒れたりする方が心配なの。 だから、家でいい知らせを待ってて。」と説得した。 星彩は、ひとりで大阪に向かった。 卒業、入団を間近に控えた一枝からは、「歌劇団で待ってるよ!頑張れ」とメッセージが届いていた。 大学を卒業して社会人となった健からも、「吉報を待つ!」とだけ。 皆が自分を信じてくれている。 私も、自分を信じればいい。 そう思えた。 実技のテストは、何の不安もなかった。 伸び伸びとまるで舞台で踊るかのように舞い、歌った。 試験官の向こうに、客席が見えるようだった。 面接では、志望動機をまず聞かれた。 バレエやピアノのコンクールにも挑戦したが夢中になれなかったこと。 華苑の舞台を観て、自分は素晴らしい芸術で感動を与えるよりも、夢やトキメキを与えられる人になりたいことに気付き、それで華苑を目指したことを話した。 お母さんからは、受験を薦められたかと言う問には、母からは、特に薦められたことはなく、舞台もむしろあまり観せられてなかったと話した。 試験が終わり、そのまま、結果が出るまでホテルで待機となる。 発表の日、“七杜ひかる”の娘が受験と言うことで、取材の申し込みが数社から入っていた。 星彩は、「取材は、スクールの代表と母のマネージャーさんを通してください。」と直接受けることはなかった。 スクールの代表から連絡があり 「発表の場面はスクールで映像を撮ります。なので、ホテルの部屋で待機して下さい。 発表後、取材を受けることになるかもしれません。その場合は、ホテルのロビーで行う予定です。 七杜ひかるさんのマネージャーと調整中なので、追って連絡します。」とlineが来ていた。 やがて、スクールのスタッフが、 カメラを待ってやって来た。 「それでは、撮り始めますね。」 「はい、よろしくお願いします。」 「自信はありますか?」 「はい、自信はありますが、 ドキドキします。あ、もうすぐです。 出ました。開きます。」 番号をスクロールしていく… 「ありました!」 「おめでとうございます。」 「母に連絡します。 もしもし、お母さん、うん、合格した!ありがとう。 おばあちゃんにも連絡するね。 もしもし、おばあちゃん。 合格しました。ありがとう。 うん、また後で連絡するから。」 そこで撮影は終了し、 代表の待つ部屋へ報告に行った。 コンコン 「失礼します。安倍星彩です。 合格しました。 3年半、ありがとうございました。」 「今、学校から連絡があって、 文句なく、首席だそうです。 入学式で新入生代表として挨拶してもらうことになるので、そのつもりでいてくださいとのことでした。」 「はい。分かりました。」 「それと、取材の件ですが、 学校の許可も出たので、 マネージャーと調整中です。 関西の新聞社とテレビ局が数局になると思います。 準備のために、メイクルームに案内しますので、スタッフと向かってください。」 「はい、わかりました。」 メイクルームには専任のスタッフがいて、テレビに合わせたメイクを施してくれた。 服装は、そのままでいいということなので、取材を受けるロビーへと向かった。 共同取材ということで、数を絞ったようだが、関西だけでなく、関東のキー局のカメラも入っていた。 「安倍星彩さん、華苑音楽学校、 合格おめでとうございます。 今のお気持ちをお聴かせください。」 「はい。華苑音楽学校を受験する事に決めてからの3年半、母や祖母を始め、 受験スクールの先生方、仲間、 たくさんの方に支えていただき、 励ましていただきました。 本当に感謝しています。 皆さんの励ましに報いることがで来て、安堵すると共に、 ここがゴールではなく、 スタートですので、 良き舞台人となれるよう、 これからも励みたいと思っています。」 「小6の時にバレエコンクールで優勝されていますね。国際コンクールへも招待されていたのを辞退され、華苑音楽学校を選ばれたのはお母様の影響でしょうか。」 「はい。母から華苑を薦められたことはありません。 ですが、幼い頃から母について舞台の楽屋やお稽古場によく行っていて、そこが私の遊び場でしたので、自然に芸事に触れることは多かったです。 遊びとして楽しいので、バレエもピアノも歌も、母の真似をして始めました。 小6の時、自分が夢中になれるものを探したいと思って初めてコンクールに出ました。 賞をいただきましたが、夢中になれるものは違う気がして、華苑の舞台を観た時に、これをやりたいと初めて思ったのです。 それから、3年半無我夢中で、全力で走り抜けてきました。」 「首席合格ということで、 入学式で挨拶をされるそうですね。」 「はい、大変緊張いたしますが、 しっかりと努めさせていただきたいと思っています。」 「ありがとうございました。」 「ありがとうございました。」 インタビューの様子は、全国で流された。 「星彩ちゃん、 中3なのにしっかりしてるね~。 なんか、もう既に風格というかオーラがあるわね。さすが、流星さんとひかるちゃんの娘だわ。」 「星彩ちゃん、立派に受け答えして凄いわね~。 私の孫じゃないみたいだわ。」 その頃 「もしもし、俺、健。 合格おめでとう。テレビ見たよ。」 「連絡しないでゴメンね。」 「取材とか忙しかったんだろう? 既に。 まさか、関西ローカルだけじゃなくて、 全国放送で出るとは思わなかったけど。 それだけ、両親の名が知られているってことなんだな。 まぁ、ひかるさんは現役バリバリだから分かるけど、流星さんのファンもまだいるんだな。 なんか、最後に出したCDが、最近また売れたるみたいだよ。」 「へえ、そうなんだ。 身近な人の方が意外と知らなかったりするのかな。」 「しばらく会えないけど、頑張れよ。首席合格だから、色々大変だろうけど。 有名人の娘で風当たりもありそうだし。」 「うん、分かってる。 スクールの代表から、受験前に、 合格じゃなくて、首席合格して、 首席卒業するつもりで行きなさいって、 そのくらいの覚悟で臨みなさいって言われた。」 「そっか。じゃあ、また連絡する。 お疲れ。今日はよく休んで。お休み。」 「お休みなさい。」
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