待っていても、いいか?

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待っていても、いいか?

京都出張からの帰り 新幹線の中で、星彩からのline受け取った。 今晩、久しぶりに会えると楽しみにしてたのに、残念、すれ違いか… まだ1年目なのに、 ずいぶん忙しいんだな。 ひかりのエトワールは、確かに素晴らしかった。 大階段の真ん中で、スポットライトを浴びて歌うひかりは輝いていた。 健には、その役の価値は分からなかったが、母によれば、 娘役なら一度はやりたい憧れなのだそうだ。 退団公演で、初めてご褒美的な意味でやらせて貰えればまだ良い方で、 一度もエトワールを務めることなく辞めていく人の方が多いのだそうだ。 その大役を、入団早々抜擢されたひかりの実力はもちろん、歌劇団の期待も感じられた。 それにしても、 夕方のニュースを見て! って何だろう? そんなことを考えながら帰社したのが、 ちょうど夕方のニュースの時間帯だった。 「お疲れ様で~す。ただ今戻りました。」 「園田、七杜ひかりさんって、 お前と昔一緒に住んでた、 妹みたいな子、だよな?」 「えぇ、まぁ、そうですが… それが、何か?」 「ニュースまだ見てないんだ? ネットにもいっぱい出てるぞ。」 「えっ?」 携帯を開いてネットニュースを見ると、 どこも華苑歌劇団、新トップコンビの話題で溢れていた。 トップスターになった扇 涼が、 相手が見つからず遅咲きだった一方、 相手役の七杜ひかりは研1という対比が尚更話題をさらっていた。 「ひかりさんて、かわいいな~。 その辺のアイドルより、なんというか清楚で妖精みたいだ。 俺、ファンになりそう! 園田、ずるい。こんなかわいい妹、 紹介してくれ!」 「妹じゃないですし、 俺ももう3年くらい会ってないです。」 「そうか。華苑音楽学校は、 全寮制で、大阪だったもんな。 でも、東京公演で帰ってくることはあるんだろう?」 「えぇ、まぁ、昨日千秋楽だったんで、 明日まで東京にいるはずだったんですけど、急遽帰ったようで、今回は俺もすれ違いで… そうか、トップ娘役になったんだ… (また、当分会えないな…)」 その時、健の携帯が鳴った。 「もしもし、お兄ちゃん?星彩です。 今日会えると思ってたのに、残念。」 「あぁ、そうだな。 ニュース見たよ。おめでとう。 大変だろうけど、頑張れ! 忙しいだろうに、電話ありがとう。」 「ううん、お兄ちゃんの声聞きたくて…。 忙しそうだね、お兄ちゃんも。」 「星彩ほどではないだろ。 身体に気をつけて。」 「うん、ありがとう。 おばあちゃんにも叔母さんにも 挨拶する暇もなくて、 よろしく言っといて、ね。」 「ん、分かった。じゃ、またな。」 「おい! 星彩って、ひかりさん、だろ?」 「あ、はい。 本名…華苑では、本名御法度なんで、 聞かなかったことにして下さい。」 「分かった。 こんど、チケット頼むな。 ちゃんと金は払うから。」 「あ、はい。 その時は、なんとかします。」 また、健の携帯が鳴った 「もしもし、母さん? うん、会社に戻ったところ。見たよ。(今、星彩から電話来たところ)  今日は、デスクの上片付けてもう帰る。」 本人はいないけど、 今夜はお祝いかな…。 星彩の夢がひとつひとつ叶ってゆく。 それを見ているのは、 もちろん嬉しい。 けれど… だんだん 手の届かない処に 行ってしまいそうだ… 夢の道はまだ始まったばかりのはずなのに、もうずいぶん先に行ってしまったように感じるのはなぜだろう? 声を聞けば、 いつもの星彩がそこにいる。 安倍星彩がいなくなったわけじゃない。 ただ、 俺の“妹”じゃなくなったたけだ。 たくさんの人から愛される “七杜ひかり”になっただけ。 星彩自身は何も変わっていない。 もし、 ちょっと疲れて休みたくなったり、 星彩に戻りたくなった時は、 俺はいつもの場所に居るから、 我慢しないで帰っておいで… だから…、 待っていても、いいか? 俺の隣で良ければ…
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