俺の推しは“妹”

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舞台稽古も大詰め 今日からは衣裳を着け、本番さながらの通し稽古だ。 ひかりの場合、まだ舞台化粧に慣れてなく、それがまず第一の課題だった。 華苑歌劇団では、メイクも髪も自分で仕上げる。 ヘアメイクの専門家にやってもらうわけではない。 普通、低学年の時に基本を先輩から教えられ、 自分の肌や顔の形、髪質等を考えて、 自分なりに工夫して化粧の仕方を確立してゆく。 ところが、ひかりは研1でトップ娘役になってしまったので、まだ自分なりの化粧の仕方が出来ていなかった。 男役と娘役の化粧も違うので、 こればかりは扇も力を貸すことが出来ない。 しかし、同じ組に、元受験スクールで共に切磋琢磨した仲間が何人もいた。 彼女たちが協力してくれた。 「化粧はね、先輩からも教えられたと思うけど、“地”が命だからね。 自分の肌に合わせて、綺麗な下地を作らないと、その上にいくら色を載せても綺麗に仕上がらないの。 ひかりちゃんはね、色が白いし、 肌が綺麗だから、あんまりカバーしないといけないところもないし、 これと、これと、これでいけると思う。 見ててあげるから、自分でやってみて。」 「でもさ、この色も入れた方が若く見えるから、最初の方は使った方が良くない?」 「そうだね。少しずつ、自然に歳を重ねたように、化粧も何度か変えないと、だね。」 こんな具合に、3,4人がかりでああでもない、こうでもないと工夫を凝らしていった。 そして、仕上げを先輩にチェックしてもらう。 「取りあえず、それでやってみよう。 ライトが当たるとまた違って見えるから、舞台で確認してから、また工夫してみて。」 「分かりました。ありがとうございます。」 「みんな、自分の化粧とか衣裳も大変なのに、ありがとうね。」 「スクールで一緒に頑張った仲間じゃない。 今はこっちが先輩だけど、昔はひかりの方が先輩で、よく励ましてくれたでしょ。お互い様。 一緒に舞台を成功させようね。」 「うん。」 扇さんに声をかけられた。 「受験スクールで一緒だった子たちがメイクに協力してくれてるの?」 「はい、凄く助けられてます。 私は、まだなにもわからないので。」 「小6から受験クラスにいたんだってね。 年上の中に入って、大変だったこともあったんじゃない?」 「始めの頃は、少しありました。 でも、みんな目指すところは同じなので、すぐ仲良くなれました。」 「その時苦労した人脈が活きてるんだものね。無駄はないね。」 「はい、本当にそう思います。」 こうして、いよいよ初日を迎えた。 新トップコンビのお披露目公演。 演目も人気の名作ということで、 チケットは当然完売。満席だった。
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