お披露目公演

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お披露目公演

今日ばかりは、ひかるも仕事を入れず 流星の母を連れて大阪大劇場に観劇に訪れていた。 もちろん、園田親子、事務の藤田さん 香美帆、吉田マネージャー、坂口顧問と、坂口芸能事務所総出で来ていた。 「今日は、うちの事務所は完全に休業だわね。」 「ひかりちゃんのお披露目公演だもの、 当然よ。仕事なんてしてられっか!」 「社長の発言とは思えませんね。」 園田は大慌てで、 「坂口顧問、訂正いたします。 これも、大事な仕事の一環です。 華苑歌劇団と我が社は、 繋がりが深いですから。はい。」 「ははは、冗談ですよ。 ひかりさんは私にとっても孫のようなものです。 その、晴れ姿を見に来るのは当然ですよ。 ね、流星君のお母さん。」 「本当に、孫の晴れ姿を観られるなんて、私は、幸せ者です。」 流星の母は、既に涙をこぼしている。 「おばあちゃん、今から泣いてたら、 終わる頃にはからからに乾いちゃうよ。」 「ほんとだね。」 見渡すと、そちらこちらに知った顔が見える。 ひかると園田の同期が、かなり観劇に訪れているようだった。 「園ちゃん、結構同期が、観に来てくれてるね。」 「そりゃ、ひかるの娘のお披露目だもの。来るでしょ。」 「ありがたいな、同期って。その中でも一番ありがたいのは、もちろん、園ちゃんです!」 「そんな、よいしょしても、何も出ませ~ん。あ、もう、始まるよ。」 扇 涼の開演アナウンスがあり、幕が開いた。 闇の世界から、 暗殺者ルキーニとハプスブルク家の 亡霊たちが出てくる。 そして、闇の帝王トート閣下が登場する。 妖しく美しい闇の帝王。 重厚な音楽に乗せて、物語が始まった。 舞台は一転して、扉からまだあどけなさが残るシシイことエリザベートが登場する。 シシイは、明るくて自由でお転婆な普通の女の子。 勉強が嫌いで、今日も家庭教師の目を盗んで逃げてきたのだ。 そこへ、出掛けようとする父を捕まえる。 父も貴族にもかかわらず、堅苦しいことが嫌いな自由人だ。 狩りに出掛けるという父に「連れてって」というシシイ。 シシイは、馬に乗るのも大好きなのだ。 父にお留守番と言われ、がっかりするシシイ。 そして、家庭教師に見つかってしまう。 大慌てで逃げるシシイ。 その一部始終を、闇の帝王トートは、見ていたのだ。 家庭教師から逃れたシシイは、今度は綱渡りをして皆を驚かせようとするが、 綱から落ちて…闇の世界に一度は足を踏み入れたシシイは、そこで死ぬはずだったのかもしれない。 だが、シシイの瞳に魅せられたトートは 「俺を忘れるとしても、その命、返してやろう。生きたお前に愛されたいのだ。」とシシイを生き返らせる。 トートの姿は、シシイにしか見えない…。 そして、姉ヘレネと皇帝フランツとの見合いに、社交界に慣れるため連れて行かれたシシイは、フランツに一目惚れされて、 フランツと結婚することになるのだが… こうして、1幕が終わり、30分の休憩に入った。 「さすが、扇さんは、歌も演技も素晴らしいわね。トートの妖艶な美しさが、なんとも言えない! そして、ひかりちゃんの可愛らしいこと。 あれでは、死神も恋してしまうかもね。 ひたすら冷たく光るトートの瞳が、シシイを見た途端、動揺して揺れていくのよね。そして、優しい眼差しになるのよ。あれが堪らない。あ、墜ちたわって感じ。」 「おばあちゃん、トイレ大丈夫? お芝居終わった後も挨拶とか結構長いから、行っておいた方がいいわ。 一緒に行きましょう。」 「あ、私が行くわ。 ひかるは、またそちこちで呼び止められそうだから。」 「そうね。園ちゃんお願いします。 健君、どうだった? 観たの久しぶりよね。」 「最初は、星彩が出ると思うと自分のことのように緊張してましたけど、いつの間にか物語に引き込まれてました。 扇さんは、さすがの貫禄ですが、星彩も、この前見た新人公演の時とは別人のようです。 凄く成長したんで、驚きました。」 「新人公演も見てくれてたんだ。」 「はい、実はエトワールの時も一度だけですけど、観てました。」 「忙しいのに、ありがとう。 ちゃんと見守ってくれる人がいて、 星彩は幸せね。」
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