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東京公演
「ただいま~、おばあちゃん。
会いたかった~。」
大阪でのお披露目公演が終わり、
久しぶりにひかりは東京に帰ってきた。
自宅マンションに戻り、
流星の母に抱きつき甘えるひかり。
「星彩ちゃん、お帰りなさい。
ちょつと見ないうちに、綺麗になって…、すっかり娘役さんらしくなったわね。」
「だと良いんだけど、まだまだ付け焼き刃なの。
服を見たりお洒落するのが苦手なの、
扇さんにバレちゃった。
東京公演が終わったら、服を見立てて下さるって。
お買い物の約束しました。」
「あら、そう。
ひかるさんも男物ばかりだしね。
お手本になる人が周りにいなかったからかしら?」
「性格だから、仕方ないのよ。
でも、“より女性らしく可憐に”も
仕事のうちなんで、頑張ります。
園田の叔母さんは、娘役だったはずなのに、お母さんと一緒にいるから似てきちゃったのかしら?」
「慶子さんは、仕事に子育て、
ひとりでやって来たんだから、
男勝りにならなければやっていけなかったんでしょ。
それも、仕方ない、わね。
荷物を片付けておいで。」
「はーい。」
久しぶりの自分の部屋。
やっぱり、自分の部屋が落ち着くな~
音楽学校に入ってからも、祖母がいつ帰って来てもいいように綺麗にしてくれているのだ。
華苑は、大阪が本拠地だから、東京へは、
公演の時位しか帰れない。
だから、少し遠くても東京公演の間は、
実家から通うつもりでいた。
そうすれば、朝だけでも健さんの顔も見られるし…。
何回観に来てくれるのかな?
お仕事忙しいだろうから、無理は言えないけど、たくさん観て欲しい。
星彩のファンだって言ってくれたから、
もっと好きになってもらえるように、頑張るから…
側に居たいのに、離れて頑張ってるのは、
やりたいことでもあるし、もっと好きになって欲しいから。
もっと、“七杜ひかり”のファンになって欲しいから。
大阪で、
「俺は、いつまで“お兄ちゃん”なんだ?って言ったよね。」
恥ずかしいけど、嬉しかった。
もう、“妹”じゃなくて、
“彼女”と思ってくれてるってことだよね。
今日は、早く帰って来られるのかな?
健さんの好きな物、用意しておかなかくちゃ。
「おばあちゃん、晩ご飯の準備手伝うよ~。
私、何したらいいかな?」
普段着に着替えた星彩は、
袖をまくって台所に向かった。
19時過ぎ
「ただいま~」と、頑張って仕事早く切り上げてきた健が帰ってきた。
エプロン姿で「お帰りなさい。」と
星彩が迎えると、目を瞬いて、
眩しそうな顔をした。
「星彩も、お帰り。
おっ、今日は、ご馳走だな。」
「星彩ちゃんが手伝ってくれたからね。」
「でも、ほんの少しだよ。
指とか怪我したら困るからって、
包丁はダメって言うし。」
「そりゃそうだよ、星彩。
ヒロインが指に絆創膏してたら、
生活感丸出しじゃん。」
「だから、危なくないこと少しだけ、ね。
レタス千切るとか、肉に粉をまぶすとか。」
「出来上がったおかずを盛り付けしてくれたし、それだけでもずいぶん助かったよ。
健君、冷めないうちにいただきましょう。」
「はい、おばあちゃん。
着替えてきます。」
星彩、健、おばあちゃんが揃ったところで「いただきます。」と、食べ始めた。
「星彩ちゃんが居るだけで、
なにか賑やかでいいわね。」
「お母さんたち、相変わらず遅いの?」
「そうだね。
前よりは、休みの日は増やすようにはしてるようだけど、
仕事を始めると手を抜けない人だから、
どうしても遅くなってしまうんでしょうね。」
「側に居ない私がいうのも変だけど、
おばあちゃん、無理しないでね。」
「ありがとう、星彩ちゃん。
慶子さんが、ちゃんとヘルパーさんの手配とかしてくれてるから、大丈夫だよ。
健君も、いるんだし。」
星彩たちが食事を終えて片付け始めた頃、ひかるたちが帰ってきた。
「ただいま~。」
「あ、お母さん、叔母さん、お帰りなさい。早かったね。」
「今日ぐらい早く帰るよって、愚図るひかるを引きずって帰ってきました!お腹空いた!」
「叔母さん、スミマセン。
母がお世話になってます。」
「長い付き合いですから、慣れております。着替えてくるね。」
「お母さん、お疲れ様。」
「星彩も、お帰り。」
「はい、ただ今。」
「着替えてくるね。」
「慶子さん、私は先に休ませてもらうから、後は頼むわね。」
「はい、おばあちゃんお休みなさい。」
「叔母さん、私も明日から早いから、もう休みますね。」
「星彩ちゃん、お休み。」
着替えて食卓に戻ったひかるは、
「おばあちゃんと星彩は、寝たの?」
「うん、もう休むって。部屋に行ったわ。
健、ビール付き合う?」
「少し、もらおうかな。」
「はい、おつかれ~。
星彩ちゃん、綺麗になったね~。
立場が人を成長させるんだね。
トップ娘役らしい華やかさっていうのかな、オーラが出て来たね。」
「そう?
やっぱりどうしても親目線で見ちゃうから、心配、ハラハラが先にたって、
ダメだわね。冷静には見られないわ。
でも、リラックスしてるのは、分かる。
やっぱり家が、家族の側が一番安心出来るんだよね。
確かに、私も、華苑に居るときは、
常に張り詰めてたからね。
オフでも気が抜けないって言うか、
そういうのは、あったかな。」
「3番手のひかるでさえそうなんだから、
トップ娘役となれば、尚更だよね。」
「そうだと思うよ。
トップになったことないから、分からんけどね。
同期でトップになった望(のぞみ)っていたじゃん?
私、割と仲が良かったんだけど、
トップになったら、みるみる痩せちゃって、どんだけ責任重いんだろうって、そう思った。
彼女も、手を抜けないとこ、私と同じでさ。」
話を聞きながらグラスを重ねていた健が
「トップスターって、大変なんだな。
主役やるだけじゃないんだ。」と呟いた。
「まぁね。主役やるだけでも大変だけど、
組子80人引っ張ってく訳だから。
もちろん、組長とか幹部はいるけど、
組の雰囲気を作ったり、舞台を作る、
引っ張ってくのは、トップスターだし、
トップスターを輝かせるのは、
トップ娘役だからね。
責任重いし、だから、そんなに長くは出来ないわけよ。
さて、そろそろ私たちも明日に備えますか。
初日観にいく前に片付けないといけない仕事は、済ませないとね。」
「はい、マネージャー殿。」
「後、食洗機に入れるだけだから、
俺やるから、いいよ。」
「そお、悪いね。じゃ、お先休むね。お休み。」
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