15年前のこと

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15年前のこと

ひかるは無事出産を終え、現場に復帰した。 流星の母と園田が引っ越して、流星の住んでいた部屋に住むことになった。 園田の息子は既に小学生になっていたが、ひかるの子を妹のように可愛がってくれた。 ひかるの仕事先には、かごに入れられた赤ん坊と世話役の流星の母、園田が常に一緒に居た。 高齢出産で心配されたことも一切なく、 元気ですくすく育ち、“星彩(せいあ)”と名づけられたその子は、どこへ行ってもみんなのアイドルだった。 身体が動くようになると、 稽古場や楽屋が“星彩”の遊び場になった。 芸事が好きなようで、稽古場にいても開きもせず稽古風景を眺めたり、 自分も真似をしたりして温和しく過ごしている。 4歳くらいになると、 ひかるが台詞の練習をしていると、 ひかるより先に覚えてしまうようになり、 自然に文字も覚えた。 バレエのレッスンでも声楽のレッスンでもどこでもついて行きたがり、 見よう見まねで、教えられなくても何でもできるようになっていた。 「ねぇ、ひかる、星彩ちゃんを華苑に入れるつもりなの?」 「別に考えてないけど、どして?」 「バレエも歌もピアノも習わせて、 みんな巧いじゃない? 台詞覚えまで早いし。」 「習い事は、本人がやりたがるからやらせてるだけだよ。 先のことは、何も考えてないし、 今のところ子役でデビューとかも考えてないよ。 しっかり勉強して欲しいし。 小学校は、警備のこととかあるから 私立に入れるけどね。 ほんとは、普通に地元の学校に通わせたいけど、受け入れる側が大変かなと思って。」 「確かにね~。 取材とか来られたら公立の学校は大変だろうね。 それにしても、バレエもやってるのに、 何で星彩ちゃんはいつもズボンで髪をショートにしてるの?」 「あれも、私の真似をしたがるのと、子どもって良く動くじゃない? 私も子どもの頃からスカートってはいたことなかったし、 ズボンの方が動きやすいでしょ。」 「今から、男役の英才教育かと思ったよ。」 「まさか…」 ひかるは、星彩を普通の子として育てたかった。 自分も音楽学校に入るまでは、 自由に野山を駆けまわり、 のんびりと育ったからだ。
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