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母心
「ひかる、ちょっとプライベートの話してもいい?
仕事中に申し訳ないんだけど。」
「うん、なに?」
「健のことなんだけど、
成績はまあまあなんだけど、
進路に迷ってるみたいでさ。
こういう時、父親がいないのって、
どうしたらいいんだろうね。
女親には分からないこともあるじゃん?
どうしたもんかな、と、思って。
まぁ、まだ高校入試だし、
ここで多少遠回りしてもたいしたことじゃないんだけど、
なんだか本人が煮え切らない感じがね~。」
「私たちが逆に早い時期に目標ががっちりあったからね。
余計そう感じるんでしょ。」
「そうね。それは、ある。
それからさぁ、
健、星彩ちゃんの事が好きなんだよね、きっと。
妹としてではなく。
ただ、ひかるも悩んだ事があるだろうけど、たとえ星彩ちゃんが自分の事を好きになってくれたとしても、星彩ちゃんは自分一人のものにしちゃいけないんじゃないかと思ってるみたいなの。
住んでる世界が違うみたいな感じかな。」
「なるほどね。
兄弟みたいに育ったんだから、気にしてないと思ってたんだけど、そうじゃないみたいね。
私としては、健君は星彩に対して、
そんな風に特別な別世界の人、じゃなくて
普通にお兄ちゃんで居て欲しいし、
好きなら普通に好きって思って欲しいんだけどな。
そうもいかないのかな。」
「そうみたい。
星彩ちゃんのことが好きなのは間違いないと思うんだけど、もう、妹とか女の子としてより既に星彩ちゃんのファンだよ、健は。
全寮制の学校とか、少し離した方がいいのかな?」
「どうなんだろうね。
私もあんまり恋愛らしきものを経験しないで来たから、よくわかんないや。
坂口社長に相談してみたら?」
「そうだね~
でも、社長も独身だしな~
なんで、こう微妙な人ばかりなのかな、うちの会社。」
「仕事人間ばかりなのかな?」
「流星さんのお義母さんには、相談した?
あの方が一番普通だと思うよ。
この界隈では。」
「そうだった。相談してみる。」
その日の夜
「お母さん(流星の母をこう呼んでいた)、もうお休みになりましたか?」
「慶子さん?
どうぞ。まだ、起きてるわよ。」
「スミマセン。
少しご相談したい事があって。
お時間いいですか?」
「どうぞ、私でお役に立つなら。
何かしら?」
「健のことなんですが、進路のことなんです。
勉強はちゃんと頑張ってはいるんですけれど、目標が定まってないみたいで。
私やひかるちゃんは、ちょっと特殊というか、華苑という大きな目標を早くから決めてしまって、後は迷う暇なく突き進んできたんで、よく分からないんですよね。男の子だし。
流星さんは、中学生の頃どうだったんですか?」
「そうねぇ。中学生の頃は、音楽は好きだったけど、普通の中学生だったわね。
父親も普通に高校、大学、就職って考えてたでしょうし。
変わったのはね、高校1年の文化祭で、
クラスで劇をやったんだけど、
それをミュージカル仕立てにしたのね。
担任が音楽の先生で、それで主役になってしまって、それからミュージカルの世界を目指すようになったの。
あの担任の先生でなかったら、
違う道を進んだかもしれないわね。
やっぱり、縁というか、出逢いなんじゃないかしら。
だから、やりたいということは、なるべくやらせてあげる。親に出来ることはそのくらいなんじゃないかしら?
あれこれ、先のことを考えても、親の思うとおりには、いかないものよ。」
「そうですよね。
あと…こんなことをお聞きするのもどうかとは思うんですが、
健と星彩ちゃんはどう思います?」
「どおって?」
「これも、余計なお世話なんでしょうけど、健は星彩ちゃんのことが好きなのかなって…」
「凄く大事にしている事は、確かね。大好きなのも間違いないけど、それが兄としてなのか、男としてなのか、
ファンみたいな心理なのか、
それは、私にも分からないわ。
悩むことはあるかもしれないけれど、皆一度は通る道なんじゃない?
健君の場合は、ちょっと特殊かもしれないけれど。大丈夫よ。
それより、慶子さんに聞きたかった事があるんだけど。」
「なんでしょう?」
「再婚するつもりは、ないの?」
「私?ですか?今のところは…」
「そう…吉田さんていらっしゃるでしょ。事務所に。どんな方?」
「真面目です。華苑から来て、戻るのかと思ったら、結局居着いちゃいましたね。
流星さんのテレビ番組が始まる頃来て、3,4年で戻るはずが、そのままですね。
華苑とのパイプ役にはなってますが。
元は、演出助手だったんです。
色んな現場を見てこいということで来たはずなんですけど、マネージャーの仕事が面白くなったのか、社長が手放さないのか、よく分かりませんけど。
今は香ちゃんの専属になってます。
で、吉田君がなにか?」
「いえ、別に、何度かお目にかかっただけだけど、良い方だなと思って、
慶子さんとどうなのかしらって思ったものだから。」
「私は、年上だし、こぶつきですしね。」
「もし、私のことを気にしてるのなら、遠慮はしないでね。」
「それは、ないです。
私こそ、家事から子育てからお母さんに頼りきりで、申し訳ないと思ってます。
お陰で、こうして心置きなく仕事ができてるんですから。」
「それは、お互い様。
1人淋しく生きなきゃならないところを、こうして孫たちと楽しく暮らせて、働き者の嫁がふたり居るようなもので、ありがたいと思ってますよ。
健君のことも星彩ちゃんのことも、
そんなに心配しなくても、親の生き方、
背中をちゃんと見てると思いますよ。」
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