私の道は?

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私の道は?

健は無事都立の進学校に合格。 高校生活を始めた。 「お母さん、私、バレエとピアノの コンクールに出てみようと思うの。 いいかな。」 「別に構わないわよ。 先生からも薦められてたものね。」 「今までは、ただ好きでやってるだけだから、出るつもりはなかったんだけど、 やっぱり自分の進む道を見つけたいと思ったの。 他の人と比べるんじゃなくて、 何を一番一生懸命やりたいのか、 自分が本気になれるものは何か知りたくなったの。 それで、もしやりたいのが、 バレエでもピアノでも声楽でもなかったら、華苑を受けてもいい?」 「もちろん、ダメな理由はないわよ。」 「お母さんは、あんまり華苑に行って欲しくないのかなと思って。」 「そんなことないわよ。 華苑音楽学校は、いい学校だし、 歌劇団も素敵な処よ。 今まで、余り触れさせないようにしてたのは、無理をさせたくなかったから。 ミュージカルスターだったお父さんと華苑の男役だったお母さんの娘だから、 どうしても他の人より注目をあつめてしまうでしょ。 ほんとは、違うことがしたいのに、 周りの期待に無理に応えようとして欲しくなかったから。それだけ。 星彩が好きで、華苑に入りたいのなら、もちろん応援するわよ。 でも、まずバレエのコンクールとピアノのコンクールね。 全力で挑んでみて、自分が本気になれるものを見つけてね。」 まずは、バレエのコンクールに挑戦することになった。 それからは、レッスンの日を増やし、学校が終わると、毎日バレエ教室に通うようになった。 休みの日は、5,6時間練習に費やすこともあった。 元々手足が長く、体型的にもバレエに適した身体をしている星彩は、 小柄だが、踊るととても大きく見えた。 コンクールの日は、なんとかスケジュールを空けて、家族で応援に行った。 もちろん健も。 化粧をし、衣裳を身につけ舞台で踊る星彩はとても美しかった。 星彩は、全日本小学生の部で第1位になった。 国際コンクールの出場権も獲得したが、 それは辞退した。 次に、ピアノのコンクールがあったからだ。 今度は、毎日ピアノ教室に通う日々になった。 努力家のひかるの血を引いているからなのか、集中すると時間を忘れて練習に取り組んでしまう。 防音のしっかりしたマンションとはいえ、 近隣に迷惑をかけるかもしれないと思ったひかるは、手土産を持参して挨拶に回ることにした。 その事を流星の母に相談すると、 一緒に挨拶に回るという。 「同じマンションに住んでいても、 田舎と違ってどんな人がいるか知らないし、この際顔見知りになっておけば、 もしかして、お友だちになれる人がいるかもしれないでしょ。 それに、こういうことは、年寄りが行った方が、相手もぞんざいに扱えないものよ。」 ひかるは上下の部屋と同じフロアの部屋に挨拶すればいいと考えていたが、 「この際だから、全部のお部屋に挨拶しましょ。なかなか会えないお宅があれば、私が何度か行くから。ね、そうしましょ。」 というわけで、全ての部屋に挨拶に行くことになった。 手土産をどうするか迷ったが、 無難な処で、上質のタオルにした。 ぴんぽ~ん 「どちら様ですか?」 「同じマンションに住んでいる安倍と申します。 お忙しところ申し訳ありません。」と ひかるが話すと、始めはつっけんどんだった人も、モニター画面を見て慌てて扉を開ける人もいた。 「初めまして。安倍文子と申します。 こちらは主人の母です。 実は、娘がピアノのコンクールにでることになりまして、 これから毎日練習するので、ピアノの音でご迷惑をお掛けするかもしれません。 それで、ご挨拶に参りました。 3か月ほどになりますが、どうぞよろしくお願いします。」 「わざわざご挨拶いただいて、返って恐縮です。 あ…の、失礼ですが、 七杜ひかるさん、ですよね。 そしたら、こちらは、 安倍流星さんのお母様? まぁ、どうしましょ。 私、おふたりのファンで、 昔ディナーショーにも行ったこともあるんですよ。 同じマンションにお住まいだったんですね。 お嬢様がピアノのコンクールに出られるんですね。 ぜひ、頑張ってください。」 「ありがとうございます。 では、失礼いたします。」 こんなことは、何度かあった。 高級住宅地にあるマンションなので、やはり住んでいるのは、 それなりに品のある人が多かった。 流星の母は、挨拶に回るうちに、 お茶のみ友だちもできたようだった。 これで、心置きなく練習にも励むことができ、 ピアノのコンクールでは、 1位なしの2位を獲得した。 「お母さん、ありがとう。 バレエとピアノは、今の私なりにやりきった。 今度は、華苑を観に行きたいの。」 「分かった。母さんと行く? それとも、健君と行く?」 「同じ演目を3回くらい観てみたいの。 最初は、お兄ちゃんと行きたい。 2階の前の方の席って取れる?」 「お母さんの強力なコネで聞いてみる!」 「ありがとう。」 「でも、どうして最初は健君となの?」 「お兄ちゃんにも華苑を観てもらいたいし、お兄ちゃんとなら、目立たないでしょ。2階席なら全体がよく見えるし。」 「わかった。楽しみにしてて。」 そして、観劇当日 「やっぱ女性が多いな…。 あ、でも おじさんぽい人はチラホラいるな。」 「お兄ちゃん、居心地悪い?」 「そんなことないよ。 だいぶ前だけど、母さんと観に来たこともあるし。 だけど、さすがに若い男の観客は少ないみたいんだなぁ。 でも、なんで1階席にしなかったんだ?SS席は高いけど、下の方が良く見えるだろ?舞台に近いし。」 「この公演3回観るつもりだから、 今日は、お芝居の全体を観たくてね。 だから、ここにした。 でも、一応オペラグラスも用意してるよ。 気になった人がいたら表情を観たいから。」 「なるほどね。」 やがて、幕が開き一作目は芝居、休憩を挟んでレビューという構成だった。 帰り道、星彩と話ながら帰った。 「お兄ちゃん、どうだった?」 「ほんと、ファンタジーだな、華苑は。 歌もダンスも上手いし、カワイイ子も結構いて、アイドルとは違う魅力だよね。 若い男が観ないのは勿体ない気もした。 確かに、最初はちょっと気恥ずかしい感じがしたけど、のめり込んで観てたら気にならなくなったよ。 ひかるさんを見てるから、男役がカッコイイのは分かってるつもりだったけど、本物は違うな! ほんと、男よりカッコイイ。 というか、 女性の願望を詰め込んだみたいな存在なんだな。 女性が夢中になるの分かる気がした。」 「私、華苑を目指すかもしれない。 バレエもピアノも声楽も好きだけど、コンクールに出るために一生懸命やってみたけど、夢中になれるのは、違う気がしたの。 素晴らしい演奏や演技で感動を与えるより、お母さんみたいに夢とかトキメキを与えられる人になりたいのかもしれない、と今日観て思った。 まだ、決めたわけじゃないけど。」 「星彩がどの道を選んだとしても、 俺は、いつでも星彩の応援団だよ。」 「ありがとう、お兄ちゃん。」
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