嫉妬

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受験スクールのレッスン初日 星彩は、学校から真っ直ぐスクールへ向かった。 受験クラスだから、当然みんな年上で、 中高生だから星彩が一番早い。 「こんにちは!」と 元気に挨拶して、スクールのドアを開けた。 事務の人がいたので、 「今日から受験クラスでお世話になる安倍星彩です。 よろしくお願いします。」 と挨拶した。 「こんにちは。安倍星彩さんですね。代表よりお聞きしてます。 ロッカーをご案内しますね。」 「こちらが更衣室で、鍵の付いているロッカーが空いているので、お好きな場所を使ってください。 曜日によって来る人が変わりますので、 鍵はお持ち帰りにならないで下さいね。 それと、皆さんで使うロッカーですので、私物を置いたままには出来ないので、帰るときは空にして、皆さんが気持ちよく使えるようご協力をお願いします。 飲み物や汗を拭くタオルを置く場所はレッスン室にあるので、小さく纏められるバックがあると便利かと思います。 貴重品は、鍵をかけたロッカーに入れるか、心配な場合は受付でお預かりする事も出来ます。 何か、ご質問はありますか?」 「今のところないです。 分からないことが出て来たら、またお聞きします。」 「はい、では、頑張って下さいね。」 「ありがとうございます。」 星彩がひとり柔軟体操をしていると、やがて、中高生たちが三々五々やってくる音や声がする。 「失礼します。」と誰かが入ってきた。 星彩は立って 「こんにちは。」と挨拶した。 「今日からお世話になります安倍星彩と申します。 よろしくお願いします。」 「私は、佐山です。よろしく。 ゴメンね、そこ、私の場所なんで移動してもらっていい?」 「あ、スミマセン。失礼しました。 私は、どこを使ったらいいですか?」と聞くと、あの辺なら良いんじゃない?と、出入り口の近くの端の場所を指した。 「ありがとうございます。」と場所を移動すると、ドヤドヤと一斉に生徒が入ってきて、星彩は、隅っこに追いやられてしまった。 もう、柔軟体操も出来ないから、先生が来るまで温和しくしてよう、と考えていると、バレエの講師と代表の遠山がやってきた。 「皆さん、こんにちは。今日もよろしくお願いします!」 「よろしくお願いします!」 「レッスンを始める前に、新しくこのクラスに入る方を紹介します。 安倍さん、前へ来て。」 「はい。」 「安倍星彩さんです。まだ、小6ですが、週5で通いたいという希望でこちらのクラスに入っていただきました。」 「安倍星彩です。よろしくお願いします。」 「バーレッスンの時は、佐山さんの後ろの位置についてもらいますので、 佐山さん色々教えてあげて下さい。」 「はい、わかりました。」 「それでは、レッスンを始めます。 柔軟体操をしますので、皆さん広がって下さい。」 柔軟体操をしながら、なぜ自分の後ろに新人を置くのだろうと佐山は考えていた。 その疑問は、バーレッスンを始めると、直ぐに分かった。 後ろを見なくても、鏡に写る星彩の姿が目に入った。身体が柔らかく、手足が長い。細いのに、必要な筋肉はキチンと付いていて、体幹がぶれない。 基礎がキチンと出来ている子だと分かった。 指先まで神経が行き届き、所作も美しかった。 年上ばかりの中でも臆することなく、 レッスンに集中していた。 ただ、バレエ教室の古典的な踊り方で、 華苑の受験のためのバレエとの違いに戸惑っているようだった。 「それでは、バレエのレッスンは、ここまで。15分休憩して、ジャズダンスに入ります。ありがとうがざいました。」 「ありがとうがざいました。」 タオルと飲み物を取って、元の場所に戻ると、佐山が話しかけてきた。 「バレエ歴は長いみたいね。 いつからやってるの?」 「たぶん、4歳位からです。 母のレッスンについて行っているうちに、自分ではレッスンしてるつもりがなくて、遊んでいるうちに、一緒にレッスンするようになった感じなんです。 ですから、真面目に取り組み始めたのはこの1年位です。 ジャズダンスは、未経験なので、頑張らないと。皆さんについて行けなかったら、2年生のクラスに行くことになるので。 私、一番後ろに移動します。失礼します。」 ジャズダンスのレッスンが始まった。 「安倍さん、リズムに乗れてないよ!」講師の檄が容赦なく飛ぶ。 星彩は、前の生徒の振りに付いていくのがやっとだ。 グループ分けして4,5人づつ踊る。 「もっと、大きく!身体全体で表現して!」 ジャズダンスのレッスンは、無我夢中で、あっ言う間に終わった。 「ありがとうございました。」 ふぅ、とため息をついていると、 佐山が話しかけてきた。 「お疲れ!」「お疲れ様です。」 「安倍さん、ほんとに初心者?」 「はい、この間入会前にどのクラスに入るか決める時に踊ったのが初めてで、今日は2回目です。 皆さん、凄いですね。」 「だって、受験クラスだもの。 半年後には試験なんだもの。 これくらい出来て当然よ。 そこに混じってやっていこうっていう安倍さんの方がびっくりするわ。」 「そういえば、そうですね。 つい、夢中になると周りが見えなくなる質かもしれません。」 「どうして、中2のクラスにしなかったの?」 「私、やると決めたら、とことんやりたいというか、1つのことしか出来ないんです。だから、週5で通いたいと思って、そうしたら、受験クラスになると言われたので、途中で無理だと思ったら、下のクラスには移れるというお話しでしたし、出来るところまで頑張ってみようと思ったんです。」 「そうなんだ。負けないように頑張んないと、私も!」 「佐山さんのジャズダンスは、とても素敵でした。動画を撮ってお手本にしたいくらい。」 「ありがとう。私は、安倍さんと逆で、ジャズダンスは、結構やってきたけど、バレエが苦手なの。始めたのが遅かったし、身体が硬いのよ。 バーレッスンって、やっぱり毎日するの?」 「そうですね。家に居るときは、基本しますね。もう、昔からの習慣で。」 「お母さんって、ひょっとして華苑のOGさん?」 「はい、そうです。」 「だから、小さい頃から自然と芸事に馴染んでたのね。羨ましいな~」 「でも、そんなに舞台を観に行ったりはしてなくて、最近まで華苑に入るつもりもなかったんです。」 「へえ~そうなんだ。てっきり、英才教育されてたのかと思った。」 「そういうプレッシャーを与えたくなかったみたいで、習い事も母から薦められた事はないんです。 だから、遊びの延長で、自分が好きでやりたいことだけやってきたんです。目覚めたのは、ほんとに最近で。」 「そういうのもあるのね。とにかく、ちゃんと先に入って先輩になれるように頑張んないと、同期生にはなりたくないからね!」
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