恋もほどろ

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 日付が変わる前にベッドに入ったが、お酒のせいか、あるいは大合唱を披露する蛙のせいか、うまく眠ることができない。ベッドサイドの明かりをつけ、床に散らばった本から適当な一冊を手に取るが、並んだ文字を意味のある言葉として追う気にはなれず、早々に本を閉じる。  フローリングに敷かれたカーペットの上で、紗奈が大の字を書いて眠っている。店を出るときには紗奈は酔っ払って足もおぼつかず、「どうする?」と訊いても「どうする?」、「ホテルに泊まる?」と訊いても「泊まる?」といった具合で、いちいち私の真似をして、そしてまたふにゃふにゃと笑うだけだった。埒があかないと痺れを切らしたのはそりゃそうなんだけれど、だからって家に連れてくるなんてどうかしている。自分の部屋に泊める義理なんてないのに。適当なホテルに押し込むか、最悪道に放置しておけばよかった話だ。  するりとベッドを抜けて、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一気に飲んだ。ふうっと息をつくと、寂寂とした部屋に、メッセージ受信を告げる通知音が響く。戻って枕元に転がっているスマホを手に取ると、液晶画面には和哉の名前があった。なんとなく、読む気にはなれなかった。  もう一度ベッドに転がり、目を瞑る。眠気は一向に訪れる気配はない。こういうときは、良くも悪くも和哉に原因がある。付き合い始めてから二年間、眠れない夜はたくさんあった。これ以上ないと思えるほどの幸せな時間を過ごし、興奮で眠れない夜もあれば、くだらないことで喧嘩をして涙を流す夜や、和哉が離れていく夢を見て飛び起きる夜もあった。夜中に彼の家に行ったこともある。そんなときは決まって、別れたりしないよ、ずっと一緒だよと和哉は言い、大丈夫、大丈夫と私の頭を撫でてくれた。そうしてくれたら私は、それまでどんなにつらく心細い思いをしていたとしても、安心して眠ることができた。       いま和哉がここにいて、私をきつく抱きしめてくれたらいいのに。  そんなことを期待しながら、私は睡魔に導かれるのをただひたすらに待ち続けた。
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