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落ち着いたら式を挙げることになったらしいが、めぐみは、外出時にコソコソしなくてよくなった!と喜んでいた。
そんなめぐみから、ある報告を受けることとなった岸。
「この間、お姉ちゃんが事故った現場に行ったんだ」
「え!!」
いつだったか、めぐみが以前言っていたのだ。
あの時の事故現場を見ても平気なら、その時はじめて、トラウマを克服したことになる、と。
ただ、当時はまだ少し怖くて現場には近寄れない、と言っていたのを覚えている。
だから現場に行けたことですら成長なのだが、平気だったのだろうか。
はやる気持ちを抑えながら岸が問いかける。
「で、大丈夫だった?」
「…はじめはさ、やっぱりあの時の映像が蘇ってきて、怖くて、動機が激しくなってさ、顔色も良くなかったみたいなんだけど、隣に諒也が居て手を握っててくれてたおかげで、大丈夫だった。
あの場所を見たら、悲しくはあるけど、恐怖で足がすくむってことはなくなったよ」
「そっか。リョウさんがついててくれたんだね。じゃあ、完全にトラウマ克服できたってことだよね?」
「うん。もう大丈夫」
「良かった!めぐみ、よく頑張った!」
岸は心底安心して、めぐみに抱きついた。
「真奈美。ずっと、いろいろありがとう」
「うん!」
初めて会った頃は想像もできなかった、めぐみの幸せそうな顔を見て、岸はじんわり胸が熱くなった。
「そして、これからもよろしくね!岸」
それぞれ、ピンの仕事も増えていたが、今後もキシヤブというコンビの相方として、友人として、時には家族のような二人の関係はずっと続いていく。
めぐみは、ありさの墓前で手を合わせていた。
お姉ちゃん。
あの日、私に伝えたかったこと、きっと私は受け止め方を間違えたんだと思う。
お姉ちゃんが期待してくれてたアイドルにはならなかったから、少し悲しませちゃったよね?
お姉ちゃんのせいにして、逃げちゃってごめんね。
でも、その選択のおかげで、かけがえのない人たちに出会えたよ。
その人たちのおかげで、私は今、笑えてる。
みづきさんも言ってたけど、あの日、みづきさんに会わせてくれたのは、きっとお姉ちゃんだよね。
あれから、いろいろ変わったんだよ。
お姉ちゃんが見てきた世界を見ることができた。
前向きになることができた。
自分が頑張ったことが、誰かの助けになってることに気づけた。
人に愛される喜びと、愛する喜びを知った。
これから先、何があるかわからないけど、
私がどんな選択をしても、お姉ちゃんは応援してくれるよね?
だから、私は私の道をいくね。
大丈夫だよ。
だって、私は今、心から笑えているし、幸せだから。
- 完 -
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