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めぐみの不機嫌そうな声で、我に返ったかのように焦る諒也。
「あ、いや、違う!!そうじゃなくて…。
その…、この間、あやさんとキスしてたじゃん?ドラマの中で」
誰とでも、と言ったのは同姓であるあやのことを指していたのだろうか。
「ああ。あれのこと?あれは台本になかったのに、あやちゃんがイタズラでいきなりやってきて、私も頭ん中パニックだったし」
「あれアドリブだったんだ…」
「そのせいでまた変な噂が広がったけど。でも、そのおかげで恋愛系の質問も減ったし、変な男から誘われなくなったから、良かったかもしんない、て思ってたのは本当」
なぜ急にあやとのキスの話を出してきたのかわからないけど、これだけは言っておこうと、めぐみは続ける。
「私俳優でもなんでもないけど、諒也のさっきの言い方はよくないと思う」
「あ、そうだよな。うん。言い方間違えた。変なこと言って悪かった」
反省している諒也。
諒也も演技をやっているからわかっているはずなのに。
さきほど、演技とはいえ、めぐみが諒也にキスしたから、それが気になっているのだろう。
めぐみは、今日のために恋愛系の作品をいくつか見ていた。中には当然キスシーンやベッドシーンなんかもあった。
もし相手が生理的に受け付けない人とか苦手な人だったらどうすんだろ、プロだな、などとめぐみが感心していたことは事実だ。
めぐみは最初、諒也の偽装恋人を演じることに抵抗があった。
それは、諒也の気持ちに怖気づいて、対応の仕方がわからなくなったからだ。
しかし、逃げずに向き合えと言われ、戸惑いよりも感謝の気持ちが大きくなった。
友人としての好意はあった。
困っている友人を助けたい、元カノを撃退したい一心で偽装夫婦を承諾した。
そもそも仕事でもなんでもないのだから、イヤなら自ら申し出る必要はなかったのだ。
そう。イヤではなかったのだ。想定外だったキスも。
諒也はもしかしたら、イヤなのに、演技で仕方なくやった、と思っていて気にしているのかもしれない。
めぐみがその考えにいきついた時、イヤではなかったと伝えたくなった。
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