幸日部

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池口さんは胸を張って堂々とそう言った。なんといい言葉だろうか。きっと誰かの思い出話のように何回聞かされても飽きないような、そんな感じの言葉に聞こえた。 とはいえ、私も感心している場合ではない。何か言わねば。 私は頭の中をぐるぐる回転させて考える。すると一つだけ意見が出たので、手をあげる。 「おっ!新入部員。えーと、名前はなんだっけ?」 佐久間部長はそう言って部員の名前が書かれている表を見ながら首を傾げる。 「探野毬瀬(さぐのまりせ)です」 私は自分の名前を口にする。亡き母がつけてくれた、大切な名前だ。 「そうそう!可愛い名前だよね。いけない!失礼しました。意見をどうぞ」 相変わらず佐久間部長はおもしろい。部室はどっと笑い声に包まれる。 「今の日本が何一つ不自由ない世界であることです」 私は自信を持って言葉に出した。まちがっていてもいい。少なくとも七十五年前の戦争時代の時よりかはずいぶんましな世界だとは思う。 「おー!いい言葉言うね。このように幸せといえばの答えは人それぞれだ。間違えなんて存在しない。みんな、今年も幸日部をよろしく!じゃあ、今日の活動は終わり。さようならー」 佐久間部長はそう言ってそそくさと部室を出ていった。その様子を見て意外にのんきな人だと思う。
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