出逢い

1/1
前へ
/64ページ
次へ

出逢い

それは、中学2年生の冬の 『芸術鑑賞教室』でのことだった。 人気ミュージカル劇団『創』の若手メンバーによる地方公演を観劇した。 初めての生の観劇というのもあったが、 元々歌と芝居が好きで合唱部と演劇部に入っていた私(矢島文子)は、 たちまち魅了されてしまった。 いや、“恋”に、墜ちた。 主演の安倍流星は、若手ミュージカル俳優として注目されているのは知っていた。 でも、自分とは別世界の人だと思っていたし、手の届くはずのない世界の人だと思っていた。その日までは。 “安倍流星の隣に立つ” 無謀にも私は、そうその時に決めてしまった。 恋は、人を盲目にする。 そして、時にあり得ないパワーを発揮する。 自分の置かれている現状とか、歳の差とか諸々の “無理であり得ない条件”など眼中にはなかった。 “バカ真面目で、思い込んだら一直線” 私は、その典型的な人間だった。 どうしたら、彼の隣に立てるか。 中学生なりに必死で考えた。 地方都市に住んでいたから、芸事を学べるような教室はほとんどなかった。 しかも、両親は普通に高校・大学へ進学し、就職すると思っている。 どうしたら良いのか思い悩んでいたその時、たまたま目にしたのが、 「華苑歌劇団を卒業した娘役が、 ミュージカルのヒロインに」 という芸能記事だった。 私は、これだ!と思った。 まず、高校に入って、華苑音楽学校を受けさせて欲しいと両親に頼む。 だから、まず今は、部活動と受験勉強に全力投球することだと決めた。 私は、必死だった。 頑張った甲斐があって、県内有数の県立進学校に合格した。 そして、両親に 「華苑音楽学校に入りたいので受験させて下さい。」と、手をついて頼んだ。 最初は驚いていた両親も、私の本気度が分かると、 “成績を下げないこと” “受験は高校2年生まで”という条件で許しが出た。 父は、わざわざ東京にある、華苑音楽学校受験のためのスクールまで探して入学手続きをしてくれた。 週に一度、 往復5時間かけてスクールに通った。 一度目の受験は不合格だったが、 二度目の受験で合格を掴み取ることが出来た。 これで、“彼”への道をやっと一歩踏み出すことが出来た。 後は、努力・精進・突き進むのみ… のはずだった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加