覚えてますか?

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覚えてますか?

3年前の3月25日 私(七杜ひかる)は、華苑歌劇団を退団した。 在団12年 トップスターには、手が届かなかった。 まだ、伸びしろがある と言ってくれる人もいたし、 もちろん、 自分でも男役を極め尽くした などとは思っていない。 まだまだな部分はたくさんあって、 やりたかったけれど、 できなかった演目もある。 あと数年居れば、 あるいは真ん中に立つ トップスターになるという可能性も ゼロではなかったかもしれない。 小劇場では、 何度か主演を やらせていただくこともできた だから、 その重さ、やりがいも 少しは、分かる。 迷わなかったと言えば、 それは嘘になる。 華苑のトップスターになって 大好きな安倍流星先生に認めて貰う。 私のファンになってもらう。 初めはその為に、ひたすら精進してきた。 そして、その中で舞台に立つことの楽しさ、華苑歌劇団の他にはない素晴らしさ、男役の醍醐味を知ることが出来たように思う。 華苑には華苑の様式美がある。 それは、他の劇団の芝居やミュージカルとも似ているようで違う。 独特のトップスターシステム そして、未婚の女性に限るという 期間限定の美しさ 桜は散るからこそ、美しいように、 華苑のトップスターは、就任したその日から、退団のカウントダウンが始まる。(ごく稀に、専科として残る方もいるが。) そして、美しく散るために、全力で駆け抜ける。 だから、 私は、トップスターではなかったけれど、 桜の散る季節に華苑歌劇団を卒業することにした。 これからは、 世界でただひとつの “七杜ひかる”という “花”を咲かせていく。 この先の道は、 自分で切り拓いていかなければならない まだ、誰も通ったことのない道。 迷ったり、 時には間違えて逆戻りすることも あるのかもしれない。 でも、 ずっと一緒にいて欲しい。 今でもあなたのことが好きだから… 15年前の約束、覚えてますか?
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