雨の演奏会6

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僕は、普通だ。 誰に何を言われようと小学5年生だ。  僕はアパートにお母さんと弟の3人で暮らしている。お父さんは、僕が産まれた時からいない。だから僕はお父さんがどういう人か、どういうものか、わからない。お母さんは、僕と弟のために夜仕事に出かける。そして、僕と弟が小学校に行っている間に帰宅し、僕らが家に帰る頃にはまた出かけていく。出かけるときのお母さんは石鹸の良い香りがした。僕と弟は二人で家事をしている。まだ小学校3年の弟にはできないことがたくさんあるから、僕はあれこれと家事をしていく。 僕はお母さんのためにいい子でいたい。弟の面倒も家事も、宿題も全部頑張る。そんな僕らに、世間の人は、家事をやるなんてえらいと褒めてくれる。 しかし僕は知っているんだ。その人たちは、お母さんが夜の仕事をしていて僕たちは可愛そうだと言っていることを。僕はお母さんを悪く言う人が嫌いだ。嫌いだけど、大人になるには心に箱を作り聞きたくないことや、見たくないことをしまい笑顔でいることが必要なのだ。 いつもいい子の僕だけど、我慢出来ないことが1つある。それは毎週日曜日の夜にお母さんが連れてくる男達だ。お母さんの仕事は月曜日が休みだから、日曜の夜は必ず男の人と帰宅する。僕らは月曜日の学校のために寝ているのに、大きな声で話すお母さんと男がうるさく嫌なのだ。僕はお母さんにタダをこねるが、お母さんは、生活をしていくためだから我慢してという。我慢はいっぱいしてるのに。  僕は今寝ようとしている。明日は土曜日だからもっと遊んでいたいけど、眠くてウトウトしている。 僕はふとベランダの窓を見た。雨がしとしと降っていた。僕は雨が好きだ。雨は僕の気持ちを流してくれる。 「あれは何だろう。」 僕は眠い目を擦った。なぜなら、僕の方に向かって楽器を持った雫さん達がやってきたからだ。 僕はベランダの窓を少し開けてあげた。 5人の雫さんたちは僕の前に整列した。 「はじめまして。雨の鼓笛隊です。今日はあなたのために演奏します。どうぞ聴いてください。」  雫さんたちは、演奏をしながら僕の回りをぐるぐると回った。1人遅れてしまう人がいて、皆が右まわりから左に変えたのについていけなくて、方向転換をした雫さんとぶつかってしまう。  それでも頑張る雫さんはかっこよかった。 3曲が終了したところで、また雫さんたちは、僕の前に整列した。 「いかがでしょうか。僕はここにいる兄弟の一番上の兄です。僕の家族はみんな音楽隊です。 お父さんもお母さんも音楽で人に喜んでもらうために働いています。だから僕らは、兄弟力を合わせて頑張っています。でも時々喧嘩をします。 お父さんやお母さんにわがままを言います。練習をさぼってしまうこともあります。 でもお母さんたちは、普通でよろしい。と言ってくれます。子どもは天使だから、自分の思うままに暮らすことが普通だと。そんな僕らの曲をもう少しお楽しみください。」 僕は曲を聴きながら雫さんたちを羨ましく思った。 僕は普通じゃない。  だって思ったこと隠しちゃってるから。 子どもだから、天使でいれば良いんだ。雫さんたちみたいに一生懸命天使をすれば良いんだ。 僕はなぜだか泣いていた。涙が止まらなかった。 僕はティッシュで涙を拭いた。気がつくと雫さんたちはいなかった。 空を見上げたら、雨は止み月が虹色に光っていた。 ありがとう。雫さん。
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