【影雄】

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【影雄】

私は特殊能力を持っていた。影を使役できる、というものだ。 これに気づいたのは、中学二年の夏だった。夏休みの宿題の気分転換で散歩に出かけたが、あまりの暑さにすぐに踵を返した。そのとき、影がにゅっと伸び、まだ動かしていないはずの右足の影が歩き出したように見えた。反射的に、「待て!」と頭の中で叫ぶ。ピタッと止まった後、その影は何事もなかったかのように私の足に張り付いた。 この時からたびたび影の暴走が起こったが、学年が変わる頃にはある程度自分の思うままに操れるようになっていた。 走る時には非常に便利である。日陰では自力で頑張るが、日向ではよく影に走ってもらった。そして勉強でも、苦手な数学と理科は影に任せた。このおかげで、高校生になっても文武両道など容易いことだった。 他にも、嬉しいことは自分で体験するが、辛いことは影に対応させた。そのため、私の精神状態は非常に落ち着き、誰に対しても優しく接することができるようになった。 もちろん、影を使役するには何かしらのリスクがあるはずだった。しかし、体の部位が無くなったり、日に弱くなったりといった、目に見える変化は何もなかったため、楽観視していた。そもそも、影は私の一部であったのだから、自由に使えるのだ、と。影が私を蝕んでいるとも知らずに。
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