【影雄】

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あっという間に時は過ぎた。大学に入学が決まり、一人暮らしを始めて3日目、大学の入学式の日だった。影が私と入れ替わっていた。それは、カーテンの隙間から強い日が差す春の日だった。 以降、私はただ、本体に従うことしかできなかった。もちろん話すことはできないし、自由に黒い手足を動かすこともできない。すぐに誰かが気づくはずだと信じていた。しかし、高校までの友達とは違う大学に入ったこともあり、誰もが私と初対面だったのだ。そして、家でも独り。誰にも気づかれることなく1ヶ月が経過した。 その間、私も同様に、暑い日の中走らされ、勉強させられた。さらに、辛いことだけを体験させられた。たった1ヶ月だけだったが、心身共に疲弊し、病むには十分だった。今まで辛いことだけを経験させていた影は、きっとさらに病んでいるに違いない。そう思うと同時に、強い罪悪感に苛まれた。 しばらく影の動きを観察していると、それは確信へと変わった。彼の行動は、歪んだ思想を持っていることを示していたのだ。「ヒト 生きる意味」、「大量殺人」、「バイオテロ 方法」。彼の検索結果にそれは如実に表れていた。そして遂に、彼は実行に移すことを決めたようだった。 理数系を私の代わりに徹底的に学ばせていたこともあり、その方面には長けていたので着実に準備を進めていった。そして、完成させてしまったのだ。もちろん、私も黙って見ていたわけではない。いや、確かに文字通り、喋ることも自主的に動くこともできなかったが、なんとか抵抗を試み続けたのである。しかし、その甲斐虚しく、影が本体に干渉することはできなかった。
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