【影雄】

3/8
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
彼が病原体を完成させたのは、街が闇に包まれた午前二時過ぎのことだった。その後しばらくして眠りについた。その間、淡い豆電球を頼りに精一杯の力で本体に入ろうと試みたが、彼の憎しみはあまりに強く、私の入り込む余地は無かった。 日差しが差し込み、彼が目覚める。私は遂に本体を取り戻すことができなかった。その朝日は私には届かなかった。 彼は完成した病原体をそっと鞄にしまい、家を出る。雲ひとつない青空である。日差しが次第に強くなってくる。彼はテロのために地下鉄に向かう。私は狙いを定める。彼が毎日利用する駅までの道に、柵の低い川があるのだ。 次第に川の流れる音が近づいてくる。私は、力を振り絞って川に飛び込もうと黒い足を必死に動かす。もちろん、彼も抵抗するが、夏の日差しは私を色濃く刻む。次の瞬間、私は走り出し、柵に手をかけ、勢いよく川へ飛び込む。 きっと、これでよかったのだ。自分の罪は自分で償うしかない。私は彼であり、彼もまた私なのだから。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!