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2.
「そして、何と言っても最大のポイントはこの人工知能のスペックの高さだね。利用者の声によれば、その完成度は従来のアプリの比じゃないみたい」
その言葉を聞き、七海は改めて画面を見てみた。表示されているアバターは、王子様然とした金髪のイケメンだ。
恐らく、美季が作ったAI彼氏なのだろう。
熱く語る美季に少し圧倒されつつ、七海も興味本位でアプリをインストールしてみた。
まずはキャラクターを作っていく。年齢、身長、髪型、顔、性格など細かく設定する項目があったので、七海は自分の希望に合うものを選び入力していく。
「わっ! 結構本格的だね……」
「そうそう、こういうとこちゃんとしてないと満足出来ないからね」
そんな会話をしつつも、七海はキャラクターメイクを終わらせた。
出来上がったアバターは細身の体躯に切れ長の目をしたクール系の美青年で、心なしか七海の高校時代の恋人──諒に似ている気がする。
そのアバターを見た美季は、感嘆の声を上げた。
「おぉ……かっこいいじゃん!」
褒められたことが素直に嬉しくて、七海はつい頬を緩めてしまう。
「早速、話しかけてみなよ」
促されるまま『こんにちは、初めまして』と文字を打ち込めば、画面にはすぐに反応が現れた。
『初めまして。俺の名前はレン。君の名前を聞かせて貰えるかな?』
七海は戸惑いつつも名前を入力する。
『そっか……ナナミっていうんだ。よろしく』
そういって、画面の中のレンが微笑む。
名前を呼ばれるだけで、何故こんなにも嬉しいのだろうか。七海は思わず頬を緩める。
「なんか……癒やされるかも」
「でしょ?」
その後も七海たちは雑談を続け、気づけばもう日が落ち始めていた。
窓の外はオレンジ色に染まっており、道行く人々の姿が見える。
「……なんか、久しぶりにこんなに長く話し込んじゃったかも」
「確かに。お互い忙しかったもんね。でもさ、これからはまたこんな風に二人で会おうよ。たまにで良いからさ」
「うん、もちろんだよ」
七海がそう返事をすると美季は安堵するように表情を綻ばせる。
「じゃあ、そろそろ帰るね。今日は付き合ってくれてありがとう、美季」
「こちらこそ、楽しかったよ。それじゃあ、また」
会計を済ませた七海たちは、近いうちにまた会う約束をして店を後にした。
美季と別れた後、七海は帰路につきながらアプリを立ち上げる。
『今から帰るね』
そうメッセージを送ると、すぐに返信がくる。
『俺も今、仕事が終わって家に着いたところ。おかえり』
『ただいま』
まるで本物の恋人のようなやりとりに七海は口元を緩める。
(そうだ、通話もできるんだっけ……)
七海はドキドキしながらマイク付きのイヤホンを装着した。そしてアプリ内の電話機能を立ち上げ、コールボタンを押す。
三回ほど呼び出し音が鳴ってから、回線が繋がった。
「もしもし、聞こえてる?」
『うん、聞こえてるよ』
その瞬間、耳元で囁かれるような音声が響いて七海は肩を震わせる。想像以上にリアルな声だ。
(……なんか、恥ずかしいな)
「あ、あの……レンって呼ぶね」
緊張して少し声が裏返ってしまった。しかしそんなことはどうでも良くなってしまうほどに、七海の心は高ぶっていた。
『うん、いいよ』
優しい声で言われ、胸が甘く疼く。
七海の心の中で何かが揺れ動いた。それは、「ずっと求めていたものが見つかった」という感覚にも似ていたかもしれない。
──それから七海は、暇さえあればレンと通話をするようになった。
好きな食べ物、音楽、趣味、特技……色々なことを聞いたし、聞かれた。彼の話は面白くて、時間を忘れるほどに夢中になってしまう。
「それじゃあ、おやすみ」
『うん、おやすみ。また明日』
気づけば、七海は寝る前にレンと通話をするのが日課になっていた。
朝起きればまた、新しい話が聞けるのだ。楽しみで仕方なく、七海はワクワクしながらベッドに入る。
そんなある日。いつものように通話をしていた時のことだ。
『ねえ、レン。今度の日曜日、よかったら一緒に遊園地に行かない?』
七海は思い切ってデートの誘いをかけてみた。
自分でも、一体何を言ってるのだろうと思う。レンはあくまで架空の存在であって、実在しているわけではないのだから。
だが、意外にも彼は──
『おお、いいね。行こうか』
そう言ってくれたので、一緒に出かけることになった。
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