黒板事件

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 卒業式が終わり、誰もいなくなった教室の教壇の前。  担任はがらんとしたクラスを見回しながら、大きく溜息をつく。 「お疲れ様」  がらりと扉が開く音がして、担任は目を向ける。 「校長、お疲れ様です」 「なかなか大変だったな、君のクラスは」 「ええ、まあ」  担任は感慨深げに目を細める。 「そういえば、最後のホームルームでやっていたあれはなんだい?」 「見ていらしんたんですか」 「どんな感じで卒業式を迎えているのかと、毎年教室を見て回っているんだ」 「そうでしたか……」  担任は下を向く。 「それで、どうして生徒たちが目を瞑っている中で、君が手を挙げていたのかね。外から見ていると、中々に不思議な光景だったのだが」  校長は首を傾げて訊く。  担任は下を向いたまま、 「ええとですね――」  頭の中で言葉を探す。  体育祭の準備が思いの外大変で、いっそのこと中止になってしまえと――『雨よ降れ』。  そう書いてしまった後悔。  結果、クラスの仲はほぼ崩壊。  その原因が自分で、責任から少しでも逃れたかった等と――。 「言えるわけないよな……」  担任は床に向かって呟くと、顔を上げ、「後悔のないように、これからも頑張りなさいというエールを、ついアツく語ってしまいました」 毅然とした表情を校長へ向けた。  校長はその言葉に目を閉じると、深く何度も頷いた。
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