黒板事件

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 この黒板事件をきっかけに、クラスには不穏な空気が流れ――特に男子と女子の仲は悪くなり――そのまま卒業式を迎えることになった。  卒業式当日の最後のホームルーム。  これで最後になる惜別の雰囲気など微塵もない教室。  クラス委員長が満を持したように「あのさあ」と席を立った。 「もう、たぶん、今日を逃したらと思うんだけれども――」  前に出て、全員を見回す。 「あの体育祭の黒板事件だけれども、せめて書いた人、名乗り出てくれないか?」  しかし当然、声を上げるような生徒はいない。 「まあ、そうだよな。今更……だよな」  委員長は嘆息する。 「じゃあ、こうするか」  座っていた担任が立ち上がり、生徒たちを見回す。 「みんなに目を瞑ってもらい、それで挙手してもらうか。先生だけが知っているということにするのはどうだろうか」 「先生、それって意味、ありますか?」  委員長が眉間に皺を寄せるが、「まあまあ」と担任は手で制す。 「クラスがこうなってしまったという、責任というか、後悔というか、もしかしたらそういうものを感じているかもしれないじゃないか。ずっと抱えているというのも辛いものだ。都合が良いかもしれないが、一応皆の前で自分だと宣言することで、少しだけ気持ちが楽になるかも、そう思ったんだよ」  担任の言葉に、「はあ」と委員長は言い、「どうする、みんな」とクラスメイトへ目を向ける。 「まあ、どうでも良いし」 「やるだけやれば」  等という言葉が、ちょろちょろと聞こえてくる。  担任は委員長に席へ戻るよう促し、 「じゃあ、やるか。みんな、目を瞑るように」  そして数秒後に「手を挙げて」という声。  無言の時間がくらすに十数秒流れる。 「はい、目を開けて良いぞ」  担任の声をもって、嫌な緊張感が解ける。 「先生、誰でしたか?」  委員長が訊く。  担任は首を横に振って、それに答える。 「それはそうですよね。では、これだけは教えてください。手を挙げた人は、いたんですか?」 「ああ、いたぞ」  担任は頷くと、「さあ、これでこの話はおしまいだ」と大きく手を叩いた。
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