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【一口目】再会
人生最大のチャンスは、人生最大のピンチと共に訪れた。
「……店長……ですか?」
俺が絞り出すような声で言うと、勤め先の店長であり上司でもある高木さんは枝豆を摘みながらこくりと頷いた。
「柏木、ウチの店入ってもう5年ちょっとだろ。そろそろ良い時期なんじゃないかなと思って」
グラスの持ち手を握る感覚が次第に鈍くなっていく。
背中にじわりと嫌な汗が滲むのを感じていた。
「お待たせしました」
前掛けをした居酒屋の店員が、皿にこんもりと盛られた若鶏の唐揚げを運んで来た。
目の前に置かれたそれが、揚げもの特有の香ばしい匂いを醸していて、俺は口から漏れそうな「うぷっ」というみっともない音を手のひらで押さえ込みながら俯いた。
人生最大のチャンスは
『店長になれる』ということ。
そして、人生最大のピンチがこの、
ーー『会食恐怖症』だ。
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