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「えー、今日も雨―?」
ありさ先生が6カ月の赤ちゃんを抱きながら窓の外を見てぼやいた。
嫌味を含んだような、人の気持ちを悪くするような言い方に私は眉を潜めたまま黙っている。ただ、手元は忙しなく動いている。右手は9カ月の子どもがおもちゃ箱の角に頭をぶつけないよう箱をしっかりと抑え、右手は膝の上で眠たそうにしている子が転寝できるよう鈴の鳴るおもちゃをゆっくりとしたリズムを刻んで揺らしていた。
「はーあ、動かない人がいるからしんどいわー」
ああ出た、また小言だ。
動かない人、というのは9カ月の子どもを2人見ながらおもちゃ箱を抑えて膝の上に11カ月の子を転寝させている私のことだろう。いつも思うのだが、どの口が言うのだろうか。その言葉を発している本人こそ、6カ月の赤ん坊がすでに寝ているのを抱っこし続けているだけなのに。さっさとラックにのせて揺らして寝かせてしまえばいいのに、何故抱っこし続けるのだろうか。まぁ答えはわかっている。この人が寝かしつけが滅茶苦茶下手だからだ。それで子どもに嫌われていることすら気づいていない、愚かな人。
0歳4人クラスをありさ先生と担当しているが、どうしてこうもこの人は動かないのだろうと思う。でもそれを正直に言えない自分にも腹が立つ。同僚だけど彼女は26歳の私より20も年上だ。年だからすぐ疲れるのだろう。年だから、咄嗟に動けなくて、それを人のせいにして、勝手に苛立って、疲れる。
なんと理不尽で自分勝手な人間なのだろう。
だけどそれに対して文句を言えない私も、なんて弱くて情けない人間なのだろう。
咄嗟に言葉が出てこない私の稚拙な脳に腹が立つ。
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