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春は、終わりの季節だった。
五月のうららかな気候と正反対のもやもや曇った気持ちのまま、きれいに刈られた芝生を踏みつける。
――実は、前から気になってた子がいて、この前彼女の方からつき合ってほしいって言われてさ……
そんな言い訳を理由に彼氏に振られたばかりのあたしは、少しでも気分を晴らせないかと、よく通う、大学近くの公立図書館に来ていた。結局気分は晴れないまま出てきたところだけど。
ふざけんな。最初につき合ってくれと言ってきたのはそっちだったくせに、そんな中途半端な気持ちだったの? 見向きもしてくれなかった人の仕方なしの代理か。そして、今その彼女に、あたしは負けたわけね。
下を向いて図書館前の大きな広場を豪快に横切ってく。周りに置かれたベンチや芝生に座った人の視線を感じる。でも、なんだかそんなのどうでもいい。
苛立ちに任せて歩いてると、危うく木にぶつかりそうになった。葉っぱが落とす影とごつごつした幹が見えて、慌てて立ち止まり、上を見る。
降ってくる木漏れ日を浴びたら、少しだけ気持ちが落ち着いた。
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