10人が本棚に入れています
本棚に追加
『……同じくらい忘れられない存在になったのなら、もうそれはあたしの勝ちですから』
女の子のこの台詞は、きっと精一杯の強がりだ。私にはそう聞こえる。
ステージからはける彼女を追うように顔を下手に向けると、ふと照明が少しだけ当たった前方の客席に視線が行った。
座席の背もたれからのぞくスーツジャケットの肩ときれいなシルバーヘア。受付とロビーで見た男性の後ろ姿が目に入る。
よかった。飽きずに観てくれてるみたい。
終演後、客席から少しずつ人がいなくなっていく。
景斗くんやスタッフの方に今日の観劇予定は伝えているけど、楽屋に挨拶に行くかどうかは決めてない。まだ。
もうしばらく、お芝居の余韻に浸っていることにする。
劇中の女の子は、結局彼の一番になれなかったことを受け入れ、たとえ嫌われている形であっても、覚えていてもらえるならそれでいいと自分で終止符を打つ。そこに至るまでの衝突や喧嘩、中途半端な仲直りをなかったことにはできないけれど、それも含めて自分の日常を生きていく。
最初のコメントを投稿しよう!