愛に一番近い感情

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『……同じくらい忘れられない存在になったのなら、もうそれはあたしの勝ちですから』  女の子のこの台詞は、きっと精一杯の強がりだ。私にはそう聞こえる。  ステージからはける彼女を追うように顔を下手(しもて)に向けると、ふと照明が少しだけ当たった前方の客席に視線が行った。  座席の背もたれからのぞくスーツジャケットの肩ときれいなシルバーヘア。受付とロビーで見た男性の後ろ姿が目に入る。  よかった。飽きずに観てくれてるみたい。  終演後、客席から少しずつ人がいなくなっていく。  景斗くんやスタッフの方に今日の観劇予定は伝えているけど、楽屋に挨拶に行くかどうかは決めてない。まだ。  もうしばらく、お芝居の余韻に浸っていることにする。  劇中の女の子は、結局彼の一番になれなかったことを受け入れ、たとえ嫌われている形であっても、覚えていてもらえるならそれでいいと自分で終止符を打つ。そこに至るまでの衝突や喧嘩、中途半端な仲直りをなかったことにはできないけれど、それも含めて自分の日常を生きていく。
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