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それでも、自分なりに完結させて成長するのと傷が癒えるのはイコールではない。彼女はきっと、物語が終わった今もなお、痛みを抱え続けてる。
もっと何かできることがあったんじゃないだろうか、もし違うことをしていたら、もっと早くから彼のことをもっと知っていたら、別の結果が出たのではと、後悔を乗り越えられないでいると思う。
苦しませてる感情は、恋心、愛情? それとも依存や独占欲?
私の場合はどうだろう。
……いや、私たちの場合は前提が違う。だって、私はあなたに拒絶されるような言われはそもそもないはずなんだから。
でも、私だって、思えばあなたのことをよくは知らない。大人、そして脚本家になってからの姿と中身だけで、過去や、目指す未来のことはまるで謎だ。
また客席を見渡すと、ほとんどの観客がいなくなっていた。席を立とうと足元の鞄に手を伸ばす。
「すみません」
横から声がした。
そっちを向くと、列の端、客席の回路に、受付とロビーで見かけたシルバーヘアの男性が公演プログラムを半開きにして持ち、立っていた。
「間違っていたら申し訳ないですが、もしかして脚本の高橋舞子さんでいらっしゃいますか?」
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