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不意を突かれて、固まった。
劇中のすれ違う二人の主な交流の場は、渋くて貫禄のあるマスターが運営する少し古びた喫茶店で、原作の主要登場人物は彼を含めて実は三人だ。若い二人の間を取り持ったり時に少し厳しいアドバイスを出したりする何かと重要な役なのだが、今回はあくまでも二人芝居で作ってほしいという依頼だったから、マスターは台詞だけで舞台上に姿を見せることはない。
でも、このジェントルマンを見ると、まるで彼が急に舞台裏から目の前に現れたような気がしてくる。私は、まだお芝居の中にいるのだろうか……?
返事ができないでいると、彼は指を挟んでたプログラムのページを開くと、そっと私の方に向けた。
……ああ。確かにそこに脚本×演出の対談が写真付きで載っている。それで気づいたのか。
威厳みたいなものに気圧され、つい頷く。すると彼はプログラムを閉じて続けた。
「突然の申し出で恐縮ですが、少しあなたとお話ができないでしょうか。今回の作品のことについて、聞きたいことがありまして」
戸惑う。関係者としてだけじゃなく、私個人的にも、初対面の観客にこう簡単に関わっていいものか、迷う。
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