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すると、その警戒を読まれたのか、彼は一歩下がって付け加えるように言った。
「もし何か用事があるのなら結構ですが……少しの時間なら待ちます」
とは言え、諦めるつもりではなさそう。
「ですが、それでは申し訳ないですし……」
ちょっと、劇場係員の視線を感じる。早めに片付けて出ないといけない。
「いえ、私のことは気にせず。どうしても、と思ったので」
引き下がる。
だけど、嫌な強引さやしつこさは感じない。
目をそらさずじっとそっちを見ていると、下心のなさそうなその様に、毒気を抜かれた気がした。
「……あまり長くはいられないですが……四時に待ち合わせをしているので」
「そうですか」
こっちに来ようとする係員が視界に入り、慌てて、それを止めるように手を上げた。
「はい。彼が、迎えに来てくれる予定で。それでも良ければ……」
嘘だ。京介さんは締切に追われて今日は自宅から出られないだろうと言ってる。だけど男の人の存在を意識させた方がきっと安全だから、そう言っておく。
少しして、男性は短く言った。
「……優しい人なんですね」
それは確かにそう。普段は、とても……
なのに、今は喧嘩中。
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