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喧嘩中なのに、こういう時にその存在を利用しようとしてる。
自分のずるさに嫌気がさす。
昨夜の喧嘩の後に送ったメッセージを思い出す。
『明日、会って話せないですか?』
『明日は初稿の締切だから難しいです。時間ができたら僕から連絡するので』
仕事を言い訳に逃げるように会えないと言うなんて、それも大切にされていない「いかにも」なサインに思えて、不満が膨れ上がる。開演前のメッセージだって、これについては触れてないし。
「長くは取りませんので、ぜひ」
そっと礼をして言われ、私も自分が折れたのを感じた。
「……では、ちょっと、連絡だけさせてください」
一応ダメ押しのように言って、スマートフォンを取り出し電源を入れ直す。
そして一般客と同じように客席の出口から明るいロビーに出る。歩いてると、後ろに男性の気配を感じるけれど、威圧感や怖さはない。
チャットアプリを開き、景斗くんに観劇後の感想と挨拶に行けなくなった事情をやんわりと説明した。
送信前の指が画面上で止まる。
何か悔しかったけど、京介さんからの「よろしく」も、最後に付け加えた。
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