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かちり、とソーサーがテーブルに置かれる音とともに、おじさまは話を再開した。
「似合うのは間違いない。女性の方……池端さんですか、は特に……私には、役が本人に憑依しているように感じました」
「惹きつけられましたか」
好きな人を追う女の子のほうに。
「はい。彼女の台詞や感情には、まるで自分のことのように強く響くものがありました。少し、痛いくらいに」
そして彼は少しつらそうに目を伏せて、コーヒーを口に運んだ。私も続く。
しばらくは、誰も何も言わなかった。
他にも脚本や制作の話について聞かれるのかと思っても、何も続かない。
だが、そのわりにおじさまは何かを言いたそうにする。
自分から沈黙を破っていいものか、迷った。だけど、このままでいても何も進まないし幕も引けない。
「……作品について聞きたいことだけではない、のでしょうか」
恐る恐る自分から尋ねてみると、不意を突かれた表情がこっちを向いた。
たぶん、これは当たってる。
「他に、何か違う、本当に話したいことがおありなのでは。作品そのものについてではなく、たとえば、テーマや刺激された感情に関係した、ご自身の体験について、とか」
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