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いや、会ったばかりだからこそ、かもしれない。
自分のことを知っている人の相手をするというのは、自分とその人との関係を保つのに一番適切な「程度」を意識しながら臨むということだ。ただ何も考えず愚痴や不安を吐露したい時、そんな手加減の調整は実は、邪魔でストレスを増やすだけのことも多い。
不思議と落ち着いた気分になり始めた時、ふとおじさまが自分の胸元に目をやった。
私もつられるように視線をそっちに向けると、彼はワイシャツの胸ポケットに入れていたスマートフォンを取り出した。音はないが、着信だろうか。
「すみません」
軽く頭を下げられる。
だけど、ディスプレイを見た瞬間、よほど出ないとまずい相手だったのか、ふと表情が硬くなった。
「……申し訳ありません。少しだけ、外してよろしいでしょうか」
「はい、もちろん」
彼は改めて礼をすると、席を立ち店の入口へ向かった。
ガラス窓の向こう、店の外に目をやると、おじさまはやっぱりスマホの向こうにいる誰かと話していた。
私も自分の新着メッセージやメールを確認しようとスマホを見ると、終演後に連絡を入れていた景斗くんから返事が来てた。
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