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「そしてやっぱり、それは現地で清々するほど思い知りました。慣れない環境の中、孤独や知識不足、腕の甘さと向き合ってばかりの日々で、でも頼れる人はいなくて。さっき言いました通り家族にはそもそも職の応援をしてもらえていませんし、彼にも行くことを直前まで伝えていなかったので」
刺すような痛みを心臓に感じた。その時の京介さんの憤った表情を思い出したせいだ。慌てて、それを頭から追い出す。
「幸い、到着して数カ月、現地で冬を越す頃になると心を許せる友人もできていて、大きく支えてもらえました。それでも贅沢なことに、私はやっぱり日本で先の時間を生きる彼のことがずっとどこかで気になり続けてました」
同業者として、そして一人の女、あるいは人間として、ずっと気にしていた。だから、彼と繋がったままでいられる、どんなに小さく脆いきっかけ――たとえばなんてことない短文のメッセージとか、メディアで見る彼の新しい実績の報告とか――も全部掴んで、逃がすまいと必死になっていた。そのせいで悔しさや嫉妬にも負けて、文章越しに醜悪な自分を晒してしまったこともあったけれど。
その時期だった。
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