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「ひどく落ち込み、せっかくの友人にも見限られそうだと荒れていた時、彼に八つ当たりをしてしまったことがありました。だけど……」
息をし直して、続ける。
「彼は、私を怒ったり嫌ったりしませんでした。返す言葉は静かで素直で。それまでの会話や文字と変わらないくらい」
東京にいても、九時間の時差に阻まれても。
「思えば、それが穏やかな日常であっても、私が自分に負けて悩みや愚痴をこぼしてしまう時も、彼はいつも落ち着いてました」
それが心地よかった。
京介さんはいつもさりげなく、でもマメで、それが安心させてくれる。
いつも向き合ってくれた。はねのけられることなんてなかった。昨日まで。
「そんな余裕を長期間で遠距離にもかかわらずずっと持ち続けて、私に失望しないで、帰るのを待ってくれたんです。帰国後にそのことに気づいて、その時、ああ、もしかしたらこの人は……と思ったんです」
話すほど自信がなくなっていく。
「……私には、もったいない人です」
だから、こうして不安になる。
「失礼を承知で尋ねますが、高橋さんこそ、今日はその方と一緒に来ようと思わなかったのですか?」
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