愛に一番近い感情

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「恋愛関係の相手に求めるものは人それぞれとおっしゃいましたよね。お話を聞いて私が思うに、おそらくお二人の場合、相手の方が望んでいたのは、自分のその普段から持てている余裕に遠慮なく頼って甘えてくれることだったのでは」 「関係を進展させたいから提案を出したのは私です。それもそのうちに入りませんか? それを一方的に拒否や否定するようにしたのは彼のほうで……」 「何と言われましたか?」 「『言うことを聞いてくれ』とか『わかったようなことを言うな』とか――」 「わかったような気になって安易に踏み込んで、挙句に傷ついてしまうあなたを見たくない」  おじさまの声が低く、響いた。 「……え?」 「何が良くないのかわかっている。そう錯覚すると、人は間違った対処法で問題に挑もうとし、上手く行かなかった時に、なぜだ、こうなるはずじゃなかったのにと、怒り、傷つきます。もしかしたらその方は、高橋さんがそんな思いをすることを恐れて、安全な距離まで遠ざけようとしたのではないでしょうか」  言葉が出なかった。  少しずつ、言われたことが染み込んでいく。
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